「健康で長く働き続けたい」「将来、赤ちゃんが欲しい」と考える働く女性に向けて、知っておいてほしい栄養や妊活の情報を伝えてきた「ヘルシー・マザリング・プロジェクト」が、5月23日、女子栄養大学(埼玉県坂戸市)の授業の一環として、啓発セミナーを開催した。テーマは、「若い女性の低栄養と、そこから発する社会的な課題。管理栄養士に期待される役割について」。

 授業に参加したのは、管理栄養士を目指す女子栄養大学の4年生200人余りだ。近い将来、栄養指導を行うことになる専門家の卵であり、これから働く女性になる女子大生に向けたこの日の授業の内容は、すでに働いているドアーズ読者にも役立つことが満載だった。

 そこで、当日の話題の中から、ヘルシー・マザリング・プロジェクトのアドバイザリーボードの一人である予防医療コンサルタントの細川モモさん(一般社団法人ラブテリトーキョー&ニューヨーク代表理事)の講演を中心に、ポイントをお伝えする。

予防医療コンサルタントの細川モモさん(一般社団法人ラブテリトーキョー&ニューヨーク代表理事)
予防医療コンサルタントの細川モモさん(一般社団法人ラブテリトーキョー&ニューヨーク代表理事)

痩せた女性の卵巣年齢は高齢化する!? 月経異常・不妊も増える

 日本の妊娠適齢期の女性は痩せた人が多く、エネルギーや栄養が不足した状態にあることが、社会的な問題になっている。それは、痩せた女性が妊娠すると出生体重2500g以下の小さな赤ちゃんが生まれやすくなり、その赤ちゃんは、将来、糖尿病、高血圧、うつ病など生活習慣病や精神疾患の発症リスクが高くなることがわかってきたからだ。これをDOHaD(ドーハド、生活習慣病胎児期発症起源)説という(参考記事)。

 女性の体型は、健康状態や妊娠のしやすさなどと密接につながっている。

 「体脂肪率が15%以下になると月経異常が起こるリスクが高まることがわかっています(※1)。月経に関わる女性ホルモンの原料はコレステロールで、これが極端に少なくなることが一因です。また、太りすぎは排卵性不妊の原因になりますが、痩せすぎもまた不妊の原因になります。ハーバード大学の研究では妊娠に適正なBMIは20~24という報告が出ています(※2)」(細川さん)。
 細川さんが主宰するラブテリトーキョー&ニューヨーク(以下ラブテリ)での研究からも、痩せた女性は妊娠しにくくなる可能性が高まることがわかったという。
「女性が卵巣の中に持っている卵子の数は加齢により減少します。その卵子の残り数を卵巣年齢(AMH/抗ミュラー管ホルモン)といいますが、私たちが行った共同研究の結果では、20代女性で卵巣年齢が40~50代相当だった人は、BMIが18.5未満の痩せ型でした(※3)」(細川さん)。

※1 目崎登他『産科と婦人科』(1999年)
※2 Harvard Nurses Health Study.
※3 Juntendo Medical Journal 2016. 62 (2), 153-159

母体の栄養不足はそのまま赤ちゃんの発達・病気に影響

 痩せていると妊娠しづらくなることに加え、授かった赤ちゃんに健康被害が起こりやすくなるという心配事もある。

 「妊婦さんの葉酸不足による赤ちゃんの二分脊椎症、ビタミンD不足によるくる病が増加しており、出生体重が3,000g未満である場合、生後6ヶ月の時点での子供の鉄欠乏リスクが高まります。海外では、産後にビタミンKシロップと合わせてDシロップを与えたり、妊娠したら葉酸サプリメントが無料でもらえること、主食への栄養素の添加が進んでいることから減少傾向にあり、母子の栄養障害が右肩上がりというのは日本に特有の現象です」(細川さん)。妊娠する女性が痩せているということは、栄養が十分に摂れていない可能性があるわけで、そうした母体の栄養不足がそのまま、胎児や乳児の栄養と直結するのだ。

 若い女性の痩せの原因はこれまで、「美意識」によるものだと考えられてきたが、「実は“女性の社会進出”も痩せ増加の要因になっている」と細川さん。これは細川さんらが全国で働く女性約3,000人に行った健康調査から見えてきことだ。