低出生体重児が増えているのは、若い女性のやせ過ぎが一因

 吉村さんが、もう一つ、若い女性のやせ過ぎの弊害として挙げたのが、低出生体重児(2500g未満)の増加だ。やせ願望が強く、低栄養状態の女性が妊娠すると、胎児が栄養不足になり、低出生体重児が生まれるリスクが高まる。低出生体重児は、低栄養状態に対応できるように特殊な代謝経路が確立されるため、高血圧、高脂血症、糖尿病といった生活習慣病や骨粗鬆症になるリスクが上がり、動脈硬化、認知能の低下が生じるリスクも高まるとされる。

「日本で生まれる赤ちゃんの約1割が低出生体重児で、1980年から2000年のたった20年で赤ちゃんの出生平均体重が、約200gも減って、そのままほぼ横ばいになっているのは大きな問題です。国として対策を練るところまではいっていない状況ではないでしょうか」と吉村さん。

(データ:厚生労働省 人口動態統計より作成。吉村さんの資料より)
(データ:厚生労働省 人口動態統計より作成。吉村さんの資料より)

 一方で、「やせたい」という気持ちからの拒食の反動で過食になる人が多いこともあり、20代~30代の女性の肥満も徐々に増えていると指摘。「妊娠前からやせている妊婦は、低出生体重児を出産しやすかったり、早産をしやすく、逆にBMIが25㎏/㎡以上の過体重、BMI30㎏/㎡の肥満だった女性は、不妊症になる比率が高く、妊娠しても妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開、過体重児出産などのリスクが高まります。妊娠してから対応するのでは遅い部分もあるので、妊娠前から元気な赤ちゃんを産むための健康づくりをするプレコンセプションケアが重要になっています」

40歳を超えると妊娠成功率は低下、生殖補助医療を用いても10組に1組に

 そう強調する吉村さんは、講演の中で、専門である生殖補助医療(ART)についても言及。体外受精や凍結受精卵を利用した生殖補助医療の症例数を表す治療周期数は、右肩上がりで増え、2016年に日本で生まれた赤ちゃんの18人に1人は、ARTによって誕生しているが、今後はARTによる出生数は減り始めると予測した。

「日本では、体外受精などの生殖補助医療(ART)を受ける女性の高齢化が進み、2012年には40歳以上が44.7%を占める異常事態になっています。ARTによる妊娠成功率、赤ちゃんが生きて生まれる率(生産率)は、40歳を過ぎると急激に下がり、女性が40歳だと10組に1組しか妊娠できず、45歳以降は、生産率は限りなく0に近づきます。いくら医学が進歩しても、残念ながら、女性の生殖年齢には適齢期があります。やせや肥満の弊害、35歳を超えると卵巣機能が低下すること、子宮頸がん予防と検診の重要性などを、中学校や高校の保健の授業でしっかり教えていく必要があります」と吉村さんは語った。

(日本産科婦人科学会ARTデータブック(2016年)を、改変)
(日本産科婦人科学会ARTデータブック(2016年)を、改変)

 質疑応答の中で、吉村さんは、妊娠前からの葉酸摂取が不十分であるために、日本では、神経管閉鎖症が増加していることにも触れ、国策として食品への葉酸添加の必要性を訴えた。

 また、現代女性は、多産だったころの女性に比べて月経回数が増えているために、月経困難症や子宮内膜症など婦人科系の病気や悩みが増えていることも指摘し、次のように強調した。

「若い女性は、月経のトラブルを避けて生き生き活躍するためにも欧米の女性のように低用量ピルを積極的に使うことを考えるべき。ピルに対する誤解や偏見をなくすためにも、男女とも学校教育の中で、月経やピル、妊娠について学ぶ必要があります」

 月経のトラブルを避け、キャリアを積みながら、望んだときに元気な赤ちゃんが産めるように、正しい知識を身に着けることが大切だ。

吉村泰典さん
慶應義塾大学名誉教授(産婦人科医)
吉村泰典さん1975年慶應義塾大学医学部卒業。杏林大学医学部産婦人科学助教授、慶応大学医学部産婦人科学教授などを経て、2012年より、女性と子どもの未来を考える「一般社団法人吉村やすのり生命の環境研究所」主宰。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長などを歴任した不妊治療のスペシャリスト。産婦人科医として2000人以上の不妊症治療、3000人以上の分娩を行う。第2次~第4次安倍内閣で、少子化対策・子育て支援担当の内閣官房参与も務めている。『ハッピーライフのために女性が知っておきたい30のこと あすから役立つ医学のはなし』(毎日新聞出版)など著書多数。

取材・文/福島安紀 グラフ/志賀是仁 構成/黒住紗織(日経BP総研 ヘルシー・マザリング・プロジェクト)

ヘルシー・マザリング・プロジェクトとは

 将来、赤ちゃんが欲しいと思っている人に、「転ばぬ先の杖」として知っておいてほしい大切な情報を伝え、若い女性の栄養問題など、現状の問題点を解決する方法を提案していくプロジェクトです。

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