カルシウム不足は骨粗しょう症を招く。が、まだまだ先の話と思っていない? カルシウム不足はさまざまな不調の原因になり、肌の潤いとも関係していることがわかってきた。
この記事は、「日経ヘルス」に2020年12月号に掲載された記事を転載したものです。

カルシウムは全身のアンチエイジングの要

 多くの人にとって、「カルシウムといえば骨」のイメージでは? 実際、体内のカルシウムの99%は骨や歯に存在する。だが、「細胞や血液などに存在する残りの1%の方が実は重要」と話すのは、女子栄養大学栄養生理学研究室の上西一弘教授。

 「カルシウムには細胞の働きをオンにしたりオフにしたりする全身機能のスイッチの役割がある。カルシウムが細胞に出入りすることで筋肉の収縮や神経の伝達、ホルモン分泌などが調節されている」(上西教授)。

カルシウムは全身の機能調整に不可欠なミネラル
●骨格の形成
●血液の凝固
●筋肉の収縮
●ホルモン情報の伝達調整
●酵素反応
●神経伝達物質の調整
●皮膚の保湿、バリア機能の強化
 など

 加えて近年、「肌の潤いの保持にもカルシウムが関与していることがわかってきた」と話すのは同志社大学大学院生命医科学研究科の米井嘉一教授だ。

 「健康な肌の表皮では基底層から顆粒層へと、肌表面に向かってカルシウム濃度が高くなる。この濃度勾配に従って細胞が移動し、規則正しく配列されたり、細胞にケラチンの含有量が増えて皮膚バリアが形成される」(米井教授)。

 ケラチンは硬くて丈夫なたんぱく質で爪や髪に多い。「角質層にケラチンの硬いバリアがあると水分が蒸発せずに肌の潤いが保たれる。不足すると乾燥肌になる。また、表皮にカルシウムが十分にないと、温度や痛みの感覚センサーが過敏になり、かゆみが強く現れることもわかってきている」(米井教授)。

健康な表皮にはカルシウムが多い
健康な表皮にはカルシウムが多い
表皮の基底層で生まれたケラチノサイトという細胞が有棘層、顆粒層、角質層へと移動しながら成熟し、最後に垢となって剥がれ落ちる。この皮膚のターンオーバーはカルシウムイオンの濃度勾配(薄い → 濃い)に従って進む。カルシウムの存在により細胞が秩序立って並び、角質層に強いバリアが作られる