乳製品がとりやすい! 高カル食品を冷蔵庫に常備

 体の機能維持にも美肌にも重要なカルシウムだが、日本人の摂取不足は長年解消していない。18~74歳の女性の推奨量は1日650mgのところ、摂取量は20歳代では384mg/日、30歳代では441mg/日だ。

全世代の女性でカルシウムは摂取不足
全世代の女性でカルシウムは摂取不足
カルシウムは日本人の全世代で不足しているが、20歳代女性の不足の割合が顕著。「今の若い女性はカルシウムが不足しているだけでなく、運動不足もあり、このままだと、将来、骨粗しょう症になる人が確実に今より増える」(上西教授)。上図で70歳代の摂取量582mgは74歳までの値。(データ:日本人の食事摂取基準(2020年版)、平成30年「国民健康・栄養調査」)

 「カルシウムは生命維持に不可欠なので、食事からの摂取量が不足し、血中カルシウム濃度が低くなると、骨のカルシウムが使われて補う仕組みになっている」(上西教授)。骨がカルシウムの貯蔵庫といわれるゆえんだ。

 この、骨からのカルシウムの出し入れには副甲状腺ホルモンのPTHが関わっている。

 「PTHはカルシウムが十分に足りている状態では骨にカルシウムを沈着させる働きがある。しかし、慢性的なカルシウム摂取不足だと骨からカルシウムが溶け出して血中に余分なカルシウムが増える。一方で、PTH分泌が過剰となり、その作用によってカルシウムが血管壁や腎臓に沈着して動脈硬化や尿路結石の原因になる。近年、脊髄神経の通り道である脊柱管にカルシウムが沈着することが脊柱管狭窄症の原因の1つといわれ始めている」(米井教授)。このように、カルシウム不足は意外なところにも影響を及ぼし、病気や老化の一因になる。

 では補う方法は? 「牛乳やヨーグルトを毎日食べる、サンドイッチを選ぶときにチーズ入りを選ぶ、サラダやパスタに粉チーズをかけるなど、乳製品の活用はお薦め。納豆、豆腐、シラスなど、調理せずに食べられる食品を冷蔵庫に常備するのもいい」(上西教授)。

 摂取時にはビタミンDをセットでとるのが望ましい。Dがないと、カルシウムが腸管から吸収されにくくなるからだ。魚類やキノコ類などビタミンDを含む食品の摂取に加え、「紫外線に当たると皮膚でもDは合成される。1日15~30分くらい日に当たってほしい」と米井教授。

 また、「骨に重力がかかるとカルシウムが骨に沈着しやすくなる。立つ、歩くなどの負荷を加えることも大事」と上西教授。

妊娠、授乳は骨量挽回のチャンス!

 骨にカルシウムが蓄積される(骨貯金)のは成長期が最大で30歳を過ぎると、それ以上に増えることはない。つまり、大人になったら意識してカルシウムをとらないと、若いころにためた“骨貯金”は減る一方だ。

 「もともとの“貯金”が少ない女性が妊娠すると、胎児が骨格形成のために使うカルシウムや、母乳を作るために必要とするカルシウムが母体の骨から優先的に供給される。そのため、若くても妊娠中、授乳中に骨粗しょう症が進み、骨折してしまう女性もいる」(上西教授)。

 妊娠、授乳は母体の骨のダメージにつながりやすい反面、成人後に骨量を増やす唯一のチャンスでもあるという。「産後、授乳をやめ、月経が再開するタイミングで、ホルモンのバランスが変化する。このとき破骨細胞の働きが抑えられて、妊娠前より骨量が上がることがある」(上西教授)。このギフトを受け取るには、「産後もカルシウムをとり続けておくことがポイント」と上西教授は話す。

取材・文/村山真由美 イラスト/もり谷ゆみ、三弓素青 デザイン/ディッシュ 構成/黒住紗織(日経BP総研 ヘルシー・マザリング・プロジェクト

米井嘉一教授
同志社大学大学院 生命医科学研究科
米井嘉一教授 慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了。2005年より日本初の抗加齢医学講座、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授。08年より同大学院生命医科学研究科教授と兼務。日本抗加齢医学会理事。
上西一弘教授
女子栄養大学 栄養生理学研究室
上西一弘教授 徳島大学大学院栄養学研究科修士課程修了。管理栄養士、博士(栄養学)。乳業メーカーの研究所勤務を経て、女子栄養大学助手、2006年より現職。専門は栄養生理学、ヒトを対象としたカルシウムの吸収・利用。

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