木村教授らはこれまでに、短鎖脂肪酸が腸や交感神経、膵臓(すいぞう)、脂肪細胞にある受容体を介してエネルギー消費を促したり、脂肪の蓄積を抑えることを動物試験で確認しているが、母親の作る短鎖脂肪酸はどのように子どもに影響を与えているのだろうか。それを確認するためお腹の中にいる胎児を調べたところ、「胎児の時点で既に腸や交感神経、膵臓などの臓器に、短鎖脂肪酸のセンサー(受容体)が多く存在することが確認された」(木村教授)という。
胎児の臓器や神経に短鎖脂肪酸の受容体が多く存在しているということは、その子のエネルギー代謝を整えるという意味で極めて重要な意味を持つという。
「胎児は基本的に腸内細菌を持たず、お腹の中では食事もとらない。おそらく、母親の腸内で作られた短鎖脂肪酸、または何らかのシグナルを血液や胎盤を介して胎児が感知するために、胎児期においても既に短鎖脂肪酸の受容体が存在しているのではないか」と木村教授は推測する。
実際に、受容体が短鎖脂肪酸を感知して活性化すると、神経や腸、膵臓などの臓器の細胞の分化が促進することも確認された。「これは、母親の食物繊維摂取が子どものエネルギー代謝を整えるだけでなく、胎児期における臓器の発達にも関わることを示唆している」と木村教授は説明する。
これまで、子どもの臓器の発達に影響する栄養素として妊娠中の摂取が重要視されてきたのは鉄や葉酸、亜鉛、たんぱく質などが主だったが、新たに食物繊維も、子の発達形成において重要な役割を担う可能性が示唆されたわけだ。
食物繊維は水溶性と不溶性に大別され、腸内細菌が代謝しやすいのは水溶性食物繊維だ。「この実験で使用したのは、主に水溶性食物繊維。どのような食物繊維をとるのかも胎児の発達には重要といえるかもしれない」と木村教授は話す。