母親のいい腸内細菌を胎児の腸がまねる?!
一方、子どもの成長と腸内細菌の関係に詳しい、東京女子医科大学小児科学講座の永田智教授は、もう一つの可能性についても指摘する。「高食物繊維食を食べた母親の腸で増えた“太りにくい腸内細菌”を、胎児がお腹の中で直接受け継いだことで、子どもの腸で太りにくい腸内細菌叢が形成された可能性もある」(永田教授)
永田教授によると、母親の腸内細菌叢の情報が子どもに受け渡される可能性について研究報告があるという。母親の腸内細菌叢をもとにして「こういう腸内細菌を作っておくとよさそうだよ」と、子どもの腸に定着させる菌を選別する設計図のような情報が受け渡されているという考え方だ。つまり、母親が高食物繊維食を食べることで出来上がった太りにくい腸内細菌叢を、生まれてきた子どもが受け継ぐ可能性があるのだという。
日本人は万年食物繊維不足?! 国の定めた目標量では足りないかも
近年、医学界では、「発達過程(胎児期や生後早期)の低栄養をはじめとした様々な環境により、将来の健康と疾病のリスクが決定する」という「胎生期プログラミング説(DOHaD説)」が注目されている。今回の母親の摂取する食物繊維量と生後の子の肥満リスクとの関係の研究も、このDOHaD説を新たに示唆するものといえるだろう。
では、とるべき食物繊維量はどのくらいなのだろう。米国やカナダでは、健康や死亡率との関連調査をもとに算出した食物繊維の摂取目標量は「成人で1日当たり24g以上、できれば14g/1000kcal以上」とされているが、この春、改定された『日本人の食事摂取基準(2020年版)』での食物繊維の摂取目標量は、成人男性で21g以上、成人女性で18g以上と大きくかけ離れている。これは、日本人の場合、平均的な食物繊維摂取量がこの数字と大きくかけ離れていることから、理想的摂取量と平均的な摂取量の中間値を参照した上で制定されたという背景がある。つまり、食事摂取基準で定められた目標量をとっても、まだまだ足りていない可能性もあるということだ。
自身の健康はもちろん、生まれてくる子どもが健やかに育つためにも、妊娠中は日ごろの食事からの食物繊維の摂取を意識して増やすとよさそうだ。
取材・文/堀田恵美 構成:黒住紗織[日経BP総合研究所上席研究員 ヘルシー・マザリング・プロジェクト]/イラスト:もり谷ゆみ/グラフ作成:増田真一
東京農工大学大学院農学研究院 応用生命化学専攻 代謝機能制御学研究室 教授
東京女子医科大学小児科学講座 教授・講座主任 小児総合医療センター長