健康を維持するために重要な腸活。その腸活に不可欠な要素として話題になることが多いのが食物繊維だ。最新の研究では、妊婦が食物繊維をしっかり摂取することが、自身の健康だけでなく、生まれてくる赤ちゃんの臓器形成や肥満リスク低下など、次世代の健康向上にも役立つ可能性が高いことが分かってきた。肥満や生活習慣病においては、生まれてからの食生活や運動習慣による影響ばかりが重要視されてきたが、生まれる前からの母親の食生活が、子どもの健康に大きな影響を与えそうだ。
この記事は、「日経Gooday」に2020年8月20日に掲載された記事を転載したものです。

妊娠中は食物繊維をしっかり摂取することが大事。写真=PIXTA
妊娠中は食物繊維をしっかり摂取することが大事。写真=PIXTA

 「腸」は、今や健康を語る上で無視できない非常に重要な臓器。そして、腸が健康に及ぼす影響を考えるときに、なくてはならない栄養素として語られるのが食物繊維だ。

 近年、心筋梗塞や脳卒中、心臓病、糖尿病やがんなど生活習慣病との関連が指摘される疾患の発症リスクや死亡率と、食物繊維の摂取量が関連することが明らかになってきているが、論じられてきたのは、主に私たち自身の健康維持と食物繊維との関係についてだった。今回、新しい研究で分かってきたのは、妊婦の食物繊維摂取量と生まれてくる子どもの健康との関係だ。妊婦が食物繊維を多く摂取していると、生まれてくる子どもの将来の肥満やメタボリックシンドロームのリスクが減る可能性がある、という。

妊婦の食物繊維摂取量が、子どもの器官の発達や体質を決める可能性

 この研究は、東京農工大学大学院農学研究院応用生命化学部門の木村郁夫教授らと慶應義塾大学薬学部の長谷耕二教授らの研究チームによるもの。

 妊娠したマウスを2グループに分け、一方には食物繊維の少ないエサを、もう一方には水溶性食物繊維イヌリンを10%加えたエサ(高食物繊維食)を与えて飼育し、その後、生まれた子どもマウスは両グループとも離乳後高脂肪食で飼育した。すると、食物繊維の少ないエサを与えた母親から生まれた子どもマウスは成長するにつれて肥満になったが、食物繊維を多く含むエサをとっていた母親から生まれた子どもマウスは、明らかに肥満が抑えられたという。

 興味深いことに、「腸内細菌を持たない無菌状態の妊娠マウスに食物繊維を多く含むエサを与えても、生まれた子どもは低食物繊維食の母親から生まれた子と同じように重度の肥満になった。つまり、子どもの成長の仕方や将来の体形に、母親の腸内細菌が関与するということ」と木村教授は説明する。

子の肥満抑制のキーワードは、母体の腸内細菌が作る短鎖脂肪酸

 食物繊維を多く与えた母親マウスの腸内では、食物繊維を腸内細菌が分解して増える短鎖脂肪酸という物質が多く作られていた。そこで、その関連性を調べるため、無菌マウスや低食物繊維食の妊娠マウスのエサに短鎖脂肪酸の一種であるプロピオン酸という成分を加えたところ、生まれてきた子どもは、高脂肪食を食べ続けても肥満が抑制されたという。

 これは、腸内細菌が食物繊維を食べて作り出す短鎖脂肪酸が、子どもの肥満の抑制に関わっていることを示しているといえる。