不妊といえば、女性にスポットが当たりがち。だが、WHO(世界保健機関)の調査によると、不妊の約5割は男性側に原因がある。女性がいくら妊活のために生活習慣などを見直して頑張っても、パートナーの精子に問題があって、赤ちゃんが授からないかもしれないのだ。では、男性が「精子力」を高める栄養素はあるのだろうか。男性不妊治療・研究の第一人者で、獨協医科大学埼玉医療センター・リプロダクションセンターGM(統括責任者)の岡田弘さんに聞いた。
この記事は、「日経Gooday」に2019年7月19日に掲載された記事を転載したものです。

写真はイメージ=(c)Roman Samborskyi-123RF
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男性の亜鉛不足は不妊をまねく

 「残念ながら、男性がこれを食べたら精子の質がよくなって妊娠率が高まるという絶対的な食品や食事法はありません。鰻、スッポン、ニンニク、ペルー産のマカなど、精力がつく食べ物と言われるものはありますが、実は、科学的に誰もがうなづける形で、男性の生殖能力を高める効果が証明されている“絶倫食”はない。私たちの研究チームでは、約2000人の日本人の男性不妊の患者さんの食事内容と精子濃度や精子のDNA損傷率などとの関係を調べましたが、科学的に生殖能力を上げる食品は見つかりませんでした。海外では、内臓肉や赤身の魚肉の摂取量が多いほど正常形態精子率が有意に高かったなどの報告(*1)があります。しかし、日本人は、アメリカンスタイルのファストフード、中華料理、イタリアン、インドカレー、パン食、米飯と味噌汁も食べる。世界一の雑食民族ですから、日本人の食生活と生殖能力の研究は非常に難しい面もあります」

 そう指摘する岡田さんが長年、男性不妊の治療・研究を行ってきた中で、近年、みられた変化がある。それは、精子の生成や性腺機能に必要な亜鉛が不足している男性が増えていることだ。

 獨協医科大学埼玉医療センターの男性不妊外来を担当する岩端威之医師を中心に、2018年1月~19年5月に受診した26~55歳の男性297人の血中亜鉛濃度を調べたところ、潜在性亜鉛欠乏症(血中亜鉛濃度60~80μg/dL未満)が31.3%(93人)、亜鉛欠乏症(同60μg/dL未満)が0.7%(2人)だった。男性不妊外来受診患者の32.0%(95人)が亜鉛不足だったのだ。

 1回の採血結果だけでは評価が難しいが、結果的に亜鉛が不足気味だったグループは、正常群に比べて、精液量と精液の亜鉛濃度、精子の前進運動率が、有意に低いことが分かった。また、現在までのデータでは科学的に有意な差はないものの、総精子数や運動率、精子DNA損傷率は、血中亜鉛濃度正常群のほうが、良い傾向がみられた。

男性不妊症外来受診患者(平均38.3歳)297人の血中亜鉛濃度を調べたところ、潜在性亜鉛欠乏症(血中亜鉛濃度60~80μg/dL未満)が31.3%(93人)、亜鉛欠乏症(同60μg/dL未満)が0.7%(2人)だった。 (データ:「男性不妊症患者における亜鉛についての報告」(獨協医科大学埼玉医療センター男性不妊外来・岩端威之医師らの研究。2019年、日本アンドロロジー学会第38回学術大会で発表))
男性不妊症外来受診患者(平均38.3歳)297人の血中亜鉛濃度を調べたところ、潜在性亜鉛欠乏症(血中亜鉛濃度60~80μg/dL未満)が31.3%(93人)、亜鉛欠乏症(同60μg/dL未満)が0.7%(2人)だった。 (データ:「男性不妊症患者における亜鉛についての報告」(獨協医科大学埼玉医療センター男性不妊外来・岩端威之医師らの研究。2019年、日本アンドロロジー学会第38回学術大会で発表))