メンタル、骨、血管…全身に悪影響。生産性ダウン

 一般女性ではどうか。

 「一般女性の無月経は原因がさまざまですが、極端なダイエットや食事制限で体重が減って起こる“体重減少性無月経”は女性アスリートの無月経に近い。ただ、体重減少性の無月経は運動とは関係なく、日常生活に必要なエネルギー量が不足している状態です。やせと診断されるBMI 18.5未満の人は、無月経になるリスクが高いといえるのです」(能瀬さん)。

 エネルギー不足で無月経になるのは、脳から分泌される排卵を促す黄体化ホルモンが減って、排卵が起きなくなるからだ。排卵がなければ、当然、月経も来ない。「排卵は次世代をつなぐための仕組みですが、母体がエネルギー不足の場合、次世代より母体をまず守ろうとするのです」(能瀬さん)。

 アスリートの世界では、エネルギー不足の状態が続くと、無月経だけでなく、免疫や代謝、精神など全身に悪影響を与え、結果的に試合のパフォーマンス低下をもたらすとして、エネルギー摂取の重要性への認識が高まっている(下図)。

(データ:British Journal of Sports Medicine;48,491-497,2014を参考に作成)
(データ:British Journal of Sports Medicine;48,491-497,2014を参考に作成)

 これは一般女性にも当てはまる。エネルギー不足だと疲れやすく、集中力も低下し、仕事の生産性も下がることは複数の調査からも明らかだ。

 では、具体的にはどんな不具合が起きるのか。筆頭は骨密度の低下だ。骨の形成には女性ホルモンのエストロゲンが欠かせない。無月経でエストロゲンの分泌が減ると、新しい骨が形成されにくくなり、骨粗しょう症のリスクが高まってしまう。

 血管への影響もある。「無月経群と正常月経群で血管壁の機能について比較したアスリートの調査では、無月経群では血管壁の機能が落ちていました。エストロゲンは血管をやわらかくする作用があるため、無月経だと血管が硬くなりがち。閉経した女性は動脈硬化や高血圧など心血管疾患のリスクが高まりますが、若い無月経の女性でも同様のことが起こる可能性があります」(能瀬さん)。

 エストロゲンは気分を明るくするセロトニンなど、脳内で働く神経伝達物質の働きとも関わっているので、メンタルにも影響を及ぼす。「長期間無月経のアスリートでは、メンタルに影響が出るケースもあり、うつ傾向を示す人も珍しくありません」(能瀬さん)。

 肌への影響も。閉経した女性はシワやたるみが起きやすくなるが、これはエストロゲンが肌の弾力や潤いを保つ役割も持っているから。「無月経の若い女性の肌でも、閉経女性と同様にエストロゲン低下の影響が出ている可能性はある」と能瀬さん。