「葉酸」は、赤ちゃんの先天異常の予防のほか、大人の動脈硬化の予防などにもつながる必須栄養素。妊活中の人に限らず、誰もがしっかりとったほうがいいとわかってきた。
※この記事は、「日経ヘルス」に2019年6月号に掲載された記事を転載したものです。

「妊娠前から」の摂取が重要 先天異常が4~6割減

 ホウレン草から発見されたビタミンB群の一種「葉酸」。「妊娠の栄養素」との認識は広まっているが、妊娠「してから」ではなく、妊娠「する前から」とっておきたい栄養素だということを、ご存じだろうか。

 妊娠3カ月前からの葉酸サプリメントの摂取で赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクを約6割、先天性心疾患のリスクを約4割減らすとされる※1

 「葉酸には細胞分裂を助ける働きがあり、DNAのミスコピーをなくして、先天異常、いわゆる赤ちゃんの“奇形”を防ぐ。胎児の神経管や心臓の発達は、妊娠したことが判明する以前から始まっている。例えば、神経管の閉鎖は、妊娠6週末ごろまでに完了する。妊娠の判明は、一般には6週目以降なので、その時点から慌てて葉酸をたくさんとるのではなく、産みたいと思ったらすぐにとり始め、血中葉酸濃度を上げておくのがいい」

 葉酸の代謝メカニズムに詳しい福島県立医科大学医学部産科・婦人科学講座講師の太田邦明さんは、こう解説する。

欧米は減少。でも日本は30年間で二分脊椎症が倍増

 神経管閉鎖障害は、脳や脊髄のもとになる神経管が開いたままになる先天異常で、脊髄が皮膚の外に飛び出す「二分脊椎(にぶんせきつい)症」と、「無脳症」などがある。

 以前は二分脊椎症が多かった米国やカナダでは、シリアルなど小麦粉製品への葉酸添加を法制化し、サプリからの摂取の徹底をしたことで、発生率が軽減しつつある。ところが、日本では、2007~11年までの平均発生率は1万人当たり5.59人で、30年前と比べて倍以上に増えている(下グラフ)。

日本では二分脊椎症が増えている
日本では二分脊椎症が増えている
1万人当たりの二分脊椎症発生率。日本では、1974~76年は1.64人だったが、2007~11年には5.59人に。
(データ:国際先天異常調査研究機構 2014年・年間レポートより)

 「日本で二分脊椎症が減らないのは、食の欧米化で葉酸が豊富な緑黄色野菜などの摂取量が減ったうえ、葉酸を妊娠前からサプリでしっかりとったほうがいいことを知らない女性が多いことも原因だろう」(太田さん)。

 実際、日本で妊娠前から推奨量の葉酸をとっている女性は少ない。2012年に20~40代の日本人妊婦2367人を対象にした調査※2では、回答者1236人の85%が妊娠中は意識的に葉酸を摂取していたものの、妊娠前からサプリなどで積極的に摂取していた人は30%に満たなかった。サプリの摂取開始は妊娠1カ月以降、つまり、妊娠が判明してからの人が多かった。

※1 Reprod Health.:11,3:S7.2014
※2 日本公衆衛生雑誌:61,7,321-332、2014