心身の健康と密接に関わっている腸内細菌叢そうは、妊娠時にお腹の中の赤ちゃんにも受け継がれるという。健やかな腸内環境を作るには「食物繊維」の積極的な摂取が必要だ。
この記事は、「日経ヘルス」に2019年10月号に掲載された記事を転載したものです。

胎児は母体から腸内細菌叢の設計図を受け取る

 私たちの腸には約1000種類、数十兆個にも及ぶとされる腸内細菌がすんでいる。新しい解析技術の登場で近年、腸内細菌叢と健康の関わりが続々と明らかになり、どんな腸内細菌がどのように生息しているかが生活習慣病リスク、免疫力、うつ病など心身の健康状態に密接に関わることがわかってきた。

 この腸内細菌叢は、自分だけのものでなく、妊娠時に胎児にも伝わる可能性もあるようだ。

 「2016年に医学雑誌『Science』で『お母さんの腸内細菌叢の情報はあらかじめ胎児期に伝えられている』という考え方が発表された(※1)」と、胎児や乳児、小児の腸内環境を研究する東京女子医科大学小児科・主任教授の永田智さん。

 従来、「帝王切開で生まれた子の腸内細菌叢にはビフィズス菌などの有用菌が少ない」(※2)「母乳に含まれる特有のオリゴ糖が赤ちゃんの腸内でビフィズス菌を増やす」といった研究から、経膣分娩や母乳育児が赤ちゃんの腸内環境のためには重要とされてきた。

 一方、新たな研究では、母体の腸内細菌は腸粘膜をくぐり抜けたり、何らかの信号を送ることで、母体の免疫細胞である「樹状細胞」に母親の腸内細菌叢の情報を伝え、その情報を受け取った樹状細胞が胎盤を通じて胎児の免疫細胞にその情報を伝えているとする。実際に、胎盤から母体の腸内細菌やその産生物を受け取った樹状細胞が検出されている(※3)

 「母体の腸内細菌叢の情報は、いわば、赤ちゃんの腸内細菌叢の土台となる“設計図”。赤ちゃんはこれを受け取り、生まれた後はこの設計図に照らし合わせながら体に入ってきた細菌を選び取り、自分の腸内に組み込んでいく。母体由来の常在菌と異なる細菌が入ってきたときに、設計図をもとに腸管内に定着させるかどうか判断するシステムがあるようだ。だからこそ、妊娠前から腸内細菌叢を整えておくことが、赤ちゃんに“健康な設計図”を与えるために、より重要と考えている」(永田さん)。