辛いときは本当に辛いほうが役作りができる

――松嶋さんは、車椅子やベッドでのシーンが主でしたが、ご覧になっていていかがでしたか?

松嶋 皆さん、すごく大変そうではあるんですけど、それと同時に「楽しそうだな」と思いました。私の場合、現場の気遣いで楽にしていただくよりも、重いものは重く、辛い時は辛くしてもらった方が、フィジカルな部分から役作りができるんです。自分が計算していないような辛い反応が表情に出てリアリティーが増す気がします。

――過酷な現場が、出演者の演技をより良いものにしたんですね。ストーリーは、「AIが時に見せる冷酷さ」と「人間の温かさ」、対極にあるものが絡み合いながら展開していきます。お二人はその人間側を演じられたわけですが、撮影中に意識していたことはありますか?

大沢 「AI」「近未来」というと、だんだん人間味が薄くなっていくように感じますが、初めからそこは避けようと考えていました。桐生はAIに関しては特殊な才能を持った天才科学者ですが、それ以外は皆さんの夫や恋人のように、スーパーマンではない「実際にいる普通の男性」であり続けることをテーマにしていました

松嶋 私は、まだそこまでAIが発達していない時代の中で「人を助けるAIを開発したい」という思いを持つ人間味のある役だったので、特別に意識することなく役に入れました。完成した映画の中では、AIと人間の境界線が曖昧になり始めた危うい世界の中で、AIと人間の対極的な物語が同時に進行するので、ハラハラしながら見ていただけると思います。

どんなときも自分に正直に生きる

――お二人が演じる夫婦には『心ちゃん』という娘さんがいますが、この名前には「人類がAIを活用するようになっても、皆が人間らしい『心』だけは無くしませんように」という願いが込められているように感じました。お二人は20代30代だった頃、「これだけは無くさないようにしよう、大事にしよう」と心掛けていたことはありますか?

大沢 学生の頃からずっと「自分の信じた道を進みたい」と思っていました。地球上の全員が右と言っても、自分は左に進める人でありたいと思っていて、それは今でも全く変わらないです。なんと言われようと「自分の良いと思った方に進む」というのが、変わらないルールですね。

 というのも、中学でも高校でも、皆が同じテレビ番組を観て同じ格好をしているのが、すごく嫌だったんです。「本当にこの人たちは、自分の人生を生きられているのかな」と。その時に「自分はたとえ皆と考え方が違っていても、徹底してこっち側で居たい」と思ったんです。

 ものづくりをする中では、色々な意見があって当然ですから、ギクシャクすることもあります。それでも結果的に後悔しないためには、自分の選択を信じて進むこと。周りとぶつかろうが何だろうが、基本のルールは変えません。20代の頃はわが道を進んでいて、人の言うことを聞かなかったのですが、大人になってからは相手の話から学んだり、そこから新しくオリジナルの道を見つけたりできるようになりました。基本のルールは変わらないけれど、そういった面は変わりましたね。

「学生の頃からずっと『自分の道を進みたい』と思っていた」と話す大沢さん
「学生の頃からずっと『自分の道を進みたい』と思っていた」と話す大沢さん