「嘘をつかない」を大切にしてきた

松嶋 大沢さんのその感じ、分かります。大沢さんと初めて共演したのは20代前半でしたが、当時から今までの大沢さんを見ていても、貫いていらっしゃるんだなと思います。

 私が大事にしようと心掛けていたのは、「嘘をつかないこと」ですね。嘘をつくと信用を失いますし、一度失った信用を一から積み重ねるのは大変なことなので、今でも本当に嘘はつかないです。それは言葉の嘘だけではなく、感情の嘘も同様です。お芝居をする時も役を裏切りたくないので、自分の中で腑に落ちないセリフがある時は、きちんと監督とお話します。「自分にも嘘をつかないことが結果的に役を観ている人も裏切らないことに繋がる」と信じているので。

「嘘をつかないこと」を大切にしてきた松嶋さん
「嘘をつかないこと」を大切にしてきた松嶋さん

ずっと恐怖と共に生きてきた

――「自分に正直に生きる」という信念を持って、第一線を駆け抜けてきたのですね。もし20代の頃の自分に会えたら、どんな声をかけますか?

大沢 未来が全く見えない、暗闇のような20代だったんですよ。このような人気商売をやっていると、明日も分からないですし、何年売れ続けるかも分かりません。でも一方では、我やこだわりも出てきてしまって、余裕の無さから人と衝突したり、将来に対する不安からわがままな発言をしたりしていました。人気があるか無いかで判断されて、新しい俳優が出てくれば周りはそっちに行ってしまう、という状況の繰り返しで、ずっと恐怖と共に生きてきたんですよね。

 だから、あの頃の自分には「自分を信じていれば、絶対大丈夫だよ」と言ってあげたいかな。例え言ったとしても聞かないと思うし、当時既に誰かに言われていたのかもしれないですけどね(笑)。

松嶋 私はまぶしいライトを浴びていた記憶しかない20代でした。次々いただくお仕事をこなすことに精いっぱいで、一歩引いて考えることができなかったですね。周囲からは「いつも穏やかに見える」と言われていましたが、心の中では「この仕事に向いているんだろうか」「今日の仕事はあれでよかったんだろうか」と、グルグル考え続けていました。

 だから、あの頃の自分には「まだ20歳だもん、できなくて当然だよ。帰宅後にいちいち自分を責めて、できたかできてないか、納得してもらえたかどうかなんて、悩まなくてよいよ。もうちょっと楽になればよいよ」と、言ってあげたいですね。

――人気俳優であってもそんな風に悩んでいたのですね……。日経doorsの読者にも、悩みや不安を抱えている人がとても多いです。メッセージやアドバイスをいただけますか?