マーケティング手法と親目線のハイブリッド施策

 入職後、林さんが最も驚いたのは保守的な所内の雰囲気だった。

 「国で決められた施策を全うする。省庁の指示を遂行する。これらも重要な任務に変わりありませんが、この2点に注力するあまり、市民の声を聞いたり、多様な意見を取り入れたりする機会がないことに驚きました。このままでは市政の改革は程遠いと感じ、まず、どこから変えていくべきか、優先順位をつけて取り組むことにしました」

 そして、林さんが真っ先に取り掛かったのが人口の転出を食い止めることだ。

 会社員時代に培ったマーケティング戦略のノウハウを生かし、長期的なまちづくりプランを構築。その第1弾として、子育てしやすい環境の整備を目的とする「子育て支援プロジェクト」を進めた。自身も未就学児の母であることから、子育て世代の目線に立ったさまざまな施策を立案した。

【林副市長が実施した子育て支援のための施策】
・「受動喫煙防止条約」を制定
・「親子で利用しやすいお店マップ」の配布
・公立保育所での「おむつ持ち帰り」廃止
・「スマイルベビーギフト事業」

 「これらを提案するにあたり、実際に街へ足を運び、ベビーカーを押しながら商店街を歩く親たちの声を集めました」と林さん。市民の意見をデータとしてまとめ、マーケティングの視点から解決策を導いた。

 当時は路上、公共の場での喫煙が見受けられたため「受動喫煙防止条約」を制定。また、外出中のおむつ替えやミルクのお湯を確保できる場所がないといった声を受け、おむつ替えやお湯の提供に協力してくれる店舗を募った。

 賛同を得られた約80店を「親子で利用しやすいお店マップ」としてまとめ、市民へ配布。さらに、衛生面への配慮から公立保育所でのおむつ持ち帰りを廃止し、保護者の負担を軽減した。

自治体独自の取り組み「スマイルベビーギフト事業」は全国から注目を集めた
自治体独自の取り組み「スマイルベビーギフト事業」は全国から注目を集めた

 中でも四條畷市ならではの施策として注目を集めたのが「スマイルベビー事業」だ。

 2019年5月下旬頃より、生後4カ月以内のすべての新生児にベビー服などをプレゼントする。市内に店舗を構える神戸のベビー服メーカーの寄付により実現した。地域全体で子どもの誕生を祝い、行政、市民と連携しながら子育て支援ができる関係性を築くことが狙いだ。

 他にも、大阪府初として子育てに役立つ情報を提供するアプリ「マチカゴ」を導入するなど、子育て世帯が「住み続けたくなる」「引っ越してきたくなる」まちづくりに注力していく。

地域の活性化、ICTの積極活用に取り組む

 子育て支援施策の実施と並行して、四條畷市役所一丸となって市民協働のまちづくりを進めている。まちづくりに関する提案事業について公募型の補助金制度を創設し、行政と市民でジャッジしながら新規事業を後押しする仕組みを整えた。市民主導のイベントや地域活性化の取り組みなどにも積極的に協力している。

 林さんは「奈良と大阪をつなぐアクセスの良さをハード面としてアピールしながら、公園など都市整備を進めソフト面も充実させることで、他所から四條畷への流入が見込める」と語る。

 さらに、ICT(情報通信技術)を活用し、市民からの情報提供に素早く対応できる取り組みも開始した。例えば、市民が補修が必要な道路を見つけた場合、スマホで撮影し、市の公式LINEに投稿することで迅速な対応が可能に。また、職員の面接においてもWebを利用したテレビ電話を活用。一部の職種の倍率が106.5倍に上がるなど、受験しやすい環境を整えたことで幅広い人材確保のチャンスが広がった。市役所の窓口においてもQRコード決済を導入するなど、キャッシュレスを実現。

 今後も市民の暮らしやすさを考え、ICTの活用に力をいれていく方針だ。