「時間を止められない切なさ」を表現したかった
―― 夏帆さんが砂田に共感したところは?
夏帆 砂田が過去の自分にとらわれているところ。あと、いつの間にか大人になってしまったと感じる、「時間を止められない切なさ」は、砂田と同じように私も日々感じています。
箱田 まさに「時間を止められない切なさ」を表現したくて、今回脚本を書きました。30歳の砂田は一般的には大人と呼ばれる年齢ですけど、心の中では「自分がこんな歳になるなんて……」と思っているし、親も祖母もどんどん歳をとる。そんな不可逆な時間のなかで自分なりにどう生きるか、という話を書きたかったんです。
―― 実際に撮影されてみていかがでしたか?
箱田 夏帆ちゃんをはじめとした俳優陣や制作スタッフと、役柄の人物像や生い立ち、行動の裏にある心理など、細かい話をしながら撮影できました。広告の現場ではなかなか実現しにくい踏み込んだ話ができて、「映画製作ってすごく楽しい!」と思いましたね。
夏帆 映画は、突き詰めてつくれるので楽しいですよね。
箱田 こんなに楽しいなら、もっと早くやっておけばよかった(笑)。もともと映画がすごく好きだったので、いちファンとして「自分が手を出してもいいのか」と躊躇していて。でも実際に踏み出してみたら、「何を躊躇していたんだろう、早くやればよかったじゃん」と思います。
自分をさらけ出すってどういうこと?
―― 夏帆さんはどんな役作りをしたのでしょうか?
夏帆 ロケハンに同行して、箱田さんの地元とご実家にうかがいました。箱田さんがご自身を投影した役だったし、私は東京出身で田舎がないため、実際に行ってイメージを膨らませたかったんです。ご実家ではお寿司をごちそうになったのですが、仕事場とは違う、箱田さんの娘としての一面が見られてよかったです。
箱田 「実家での自分」という一番知られたくない面を見られたので、「自分をさらけ出すってこういうことだ!」と思いましたね。いつも仕事場では「ちゃんとしなきゃ」と、滑舌よく快活に話そうとしているのに、実家では「声ちっちゃ」みたいな(笑)。いわゆる私の表と裏、さらにお酒を飲んでいるときの中間の自分も見てもらったので、夏帆ちゃんは誰よりも私のことを知っていたと思う。
夏帆 撮影に入る半年くらい前から箱田さんとは何度も飲みに行き、いろいろな面を見せていただきました(笑)。普段は撮影に入る前に一人で準備する時間がすごく不安なんです。でも今回は、箱田さんや共演のシム・ウンギョンちゃんとその時間を共有できたので、すごく心強かったですね。