ドラマは「おせっかいにならないように」

 新井さんはたくさんの女性にも取材した。その中で「やりたいことがない。今後何を目標に生きていったらいいか分からない」という人が非常に多かったという。

 人生の選択は人それぞれで、何をしたいか、何をすべきなのかを他人が意見できるものではない。新井さんは、一歩引いて、おせっかいにならないよう意識してドラマを作ったという。それでも、一つの励ましをそっと「定時」に入れている。

 「才能もないし夢もないし、楽しみもない」と諦観して、アパートに帰るよりましだとしていつも会社にいる同僚に対して、主人公の結衣が独り言のように話すシーンがある。「私たちには給料日がある。私はそれを楽しみに生きているよ。(略)定時で帰って、ビール飲んで、ドラマ見て、好きな人とおしゃべりして。そういう時間を楽しめたら、それでいいかなって。……私にとってそれが一番の幸せだから

 悩みを抱える女性に対する新井流エールはこうだ。「やせ我慢はしなくていいんじゃないかな。人それぞれ好きなように生きるしかないですよね、ノーストレスで。私はノーストレス! ストレスがあればすぐ人に話して、すっきりします。モヤモヤするとそればかり考えますから。上司でも、親でも、知り合いでもいいんです。10分くらいごちゃごちゃと話して、『それじゃ打ち合わせなんで』といって去る(笑)」

部下が抱える問題は原因を切り分ける

 プロデューサーは作品の統括者だ。番組企画や予算管理、キャスティングなど、制作全般にわたり責任を持っている。統括者として、新井さんは、多くのチームメンバーの状況に目を配る。例えば助監督がきちんと休めているか、若いスタッフがある作業ばかりにかかりきりになっていないかといったことだ。

 そのため、そばに行って「何か問題ない?」と聞ける関係性を築くことに心を砕く。もしその人が苦慮している場面がドラマに重要でなければ台本をカットすることで解決できるし、重要ならCG制作を別に発注するといった決断ができる。スタッフの悩みは、意外にドラマと関係ないところにあったりするのだ。

 「『定時』ではいませんでしたが、ドラマ制作の過程で、『もう辞めたい』と言い始める若手がいます。そういう場合は、どうして辞めたいと思っているのか、話を聞く。問題が仕事内容なのか、人間関係なのか、家庭の問題なのかを切り分ける」

 「辞めたい原因が何か分かれば、それに見合った自分の体験などを話してみたり。とにかく話をするのが大事なことなのかなと思っています」

「私はノーストレス! ストレスがあればすぐ人に話して、すっきりします」
「私はノーストレス! ストレスがあればすぐ人に話して、すっきりします」