吹き替えで大切なのは「声のアンサンブル」

――宮本さんも宮﨑さんも、吹き替えは初挑戦だったそうですね。是枝監督は、なぜお二人に依頼されたのでしょうか?

是枝 まず、声優ではなく女優を起用するにあたり、「自分を消さずに自由に演技をしてほしい」という思いがありました。そこで、僕自身が心から尊敬できる女優さんに依頼をしようと考え、声を音として聞いたときのアンサンブルを想像しながら、母と娘の組み合わせをイメージしたんです。その際、宮本さんと宮﨑さんならうまくいくはずだと直感的に感じました。お二人の声は聞いていて心地よいので。

――なるほど。吹替版を見ていても全く違和感がなかったのは、お二人の声が調和していたからなんですね。女優として活躍されているお二人にとって、吹き替えは難しいものでしたか?

宮﨑 そうですね。自分が出演する作品とは違い、口の動きに合わせてセリフを言う難しさを感じました。でも画面に映っているのはアニメーションのキャラクターではなく人間なので、呼吸を合わせていくのが新鮮で面白く、演じるうちに楽しくなっていきました。

吹き替えが初挑戦だった宮本信子さんは「不安だった」というが、是枝監督は「映像とシンクロして素晴らしかった」と絶賛。宮﨑あおいさんは「演じるうちに楽しくなった」という。
吹き替えが初挑戦だった宮本信子さんは「不安だった」というが、是枝監督は「映像とシンクロして素晴らしかった」と絶賛。宮﨑あおいさんは「演じるうちに楽しくなった」という。

是枝 映像と声を別で収録しているとは思えないくらい自然でした。言葉になっていない部分まで細やかに表現されていたからこそ、映像と声がシンクロしたのだと思います。

宮本 吹き替えの仕事はしたことがなかったので、私は楽しいというより、「これで大丈夫かしら?」と不安を抱えながらの挑戦でした。このお話があったときは、是枝監督とは、3年前に伊丹十三賞を受賞して頂いた際に、一度食事をご一緒したご縁があり、今回のお話があったときは、侍のように「受けて立つ」という意気込みを持っていました。シーンごとに母親役の気持ちを考えて収録を進めていきましたが、セリフが速くて気持ちを乗せていくのが難しかったんです。是枝監督から見て、私の吹き替えは合格でしたか?

是枝 もちろんです! 宮本さんのセリフは軽やかなのに早口な印象がなく、素晴らしかったと思います。


取材・文/華井由利奈 写真/花井智子 ヘアメーク(宮本さん)/光倉カオル(dynamic)、ヘアメーク(宮﨑さん)/中野 明海(AIR NOTES) スタイリスト(宮本さん)/石田純子(オフィス・ドゥーエ)、スタイリスト(宮﨑さん)/藤井牧子 MAKIKO FUJII、衣装協力(宮本さん)/クチーナ(ルッカ)、衣装協力(宮﨑さん)/レキサミ