『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞を受賞した是枝裕和監督の最新作『真実』が、10月11日に公開されました。テーマは「母と娘」。フランスが舞台のこの作品で、吹き替えを担当した女優の宮本信子さんと宮﨑あおいさん、そして是枝裕和監督に、親子関係やフランスの先進的な働き方、映画製作の裏話について聞きました。3人が考える「母と娘の在り方」とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

誰でも一度は悩む「母と娘」の複雑な関係

――日経doorsの読者にも「母の束縛が強すぎる」「母の目を常に意識してしまう」など、母娘関係に悩む人が少なくありません。今回の映画は「母と娘」がテーマですが、母親役と娘役を演じたお二人は、日ごろどのように家族と接していますか?

宮﨑あおいさん(以下、宮﨑) 私は母と仲がいいほうだと思っているんですが、一度だけ、キツい言葉をぶつけてしまったことがありました。心身ともに疲れ切っていた時期で……。そのときは1カ月くらい悩んで、「あんなこと言ってごめんなさい」と直筆の手紙で謝りました。気持ちを伝え合っているからこそ、関係が良好なのかもしれません。

宮本信子さん(以下、宮本) 私は逆に、あえて言葉にせずに気持ちを伝えています。例えば「人の気持ちをよく考えなさい」と伝えたいときは、まず親である自分が実践する。子どもは親の背中を見て育つものですから。

 というのも、私の親が大変な苦労をしたはずなのに、一言も苦労を語らなかったからなんです。私が親になって子どもを育てる立場になったとき、「もし子ども時代に苦労話を聞かされていたら重荷に感じていたかもしれない」と思ったら、自然と私も「自分の立ち居振る舞いを通して子どもに気持ちを伝えていこう」と考えるようになりました。

――映画のなかには、母や娘に対する想いをストレートに口にするシーンも、背中で語るシーンもありましたよね。さまざまな衝突を経て、わずかではあるけれど確かに変わっていく母娘の姿に、「自分も親子関係をやり直すことができるかもしれない」「間に合わないことはない」と感じる人も多いのではないでしょうか。

母と娘の関係を描いた是枝裕和監督最新作『真実』は10月11日より全国公開。フランスを代表する女優のカトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュが主演を務めた。ドヌーブの吹き替えを宮本信子さんが、ビノシュの吹き替えは宮﨑あおいさんが担当した
母と娘の関係を描いた是枝裕和監督最新作『真実』は10月11日より全国公開。フランスを代表する女優のカトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュが主演を務めた。ドヌーブの吹き替えを宮本信子さんが、ビノシュの吹き替えは宮﨑あおいさんが担当した

是枝裕和さん(以下、是枝) 映画では、世界的に有名な大女優である母と、女優になりそこねた娘のこじれた関係が、少しずつほどけていく様子を丁寧に描きました。完全に理解しあうのは難しくても、何かをきっかけに歩み寄ることは可能で、今回はそのきっかけを「演じること」にしてみました。映画の最後は、母と娘の新しい関係がこれから始まるような、そんな終わり方にしたつもりです