秋元さんの本をすべて読み、自分に憑依させた

―― 前田さんご自身もキャリアの転換期となる時期に、DeNA会長の南場智子さんや秋元康さんなど、キーパーソンとなる人物に出会われています。そのときも「自ら好きになり、好きになってもらう」を実践したのですか。

前田 はい、当時の自分なりに一生懸命実践していたと思います。学生時代、DeNAの入社試験を受ける前は、創業者である南場社長(当時)の本を読んだり、講演を聞いたりして、15分しかない最終面接で何を伝えようか、考え抜いて行きました。徹底的に想像力を使って、相手が何を感じ、何に喜び、何に怒るのか。それらを本人以上に考えて、血がにじむほど周到に準備して臨むような気概でした。もし、南場社長が今ここにいるなら、どんな発想で、どんな言葉を発するかがパッと分かるまで研究したい、と思っていました。

 秋元康さんに対しても、同様でした。SHOWROOMを立ち上げてから何度も、AKB48グループとのシナジーを描いて、秋元康さんにご提案しました。もちろん、秋元さんの本は全て、何度も何度も、穴が空くくらいに読みました。事業内容をプレゼンするときは、自分に憑依(ひょうい)した秋元さんの価値観と、自らの内なる全力の熱意を掛け合わせて、全身全霊で説明しました。そして、最終的にはその熱が伝わったのか、「一緒に仕事をしよう」と仰って頂いて、今日につながる深い深いご縁が始まりました。

過去の悲しい運命を正当化したい

―― 事業はうまくいくときもあれば、厳しいときもある。モチベーションを維持するのは難しくないですか。

前田 僕の場合は、そこが課題になったことはほぼ無いと思います。「後天的な努力によって、逆境をはね返し、自分の運命を正当化したい」というモチベーションがとにかく強くて、この気持ちが枯れたことは過去に一度もありません。逆境、というと少し大げさかもしれませんが、具体的には、3歳で父が、8歳で母が他界した関係で、精神的にも、物理的にも、不自由な生活を強いられていたのは事実です。10歳離れた兄と暮らし、しばらく転々とした後に、親戚の家に引き取られました。真っ暗闇に閉ざされた世界にいたときに、音楽に出会いました。小学6年の頃には、生計を立てる一つの手段として路上でライブパフォーマンスをして、それを見て共感してくださる観客の方からお金をいただき、逆境をはねのけていく力を身に付けていきました。ここでの原体験が、「インターネット上で、誰もがパフォーマーになれて、表現活動で生きていける」場、すなわちSHOWROOM事業の創出につながっています。

 僕の心の中に反骨心が芽生えたのは、間違いなく、母の死がきっかけです。「この運命があったからこそ、ここまで登ってこれたんだ」と思えるような景色を、自分の力で見に行きたい。そうすれば、今まで何をしても消化しきれなかった、受け入れることができなかった自分の悲しい運命も、プライドを持って飲み込むことができるのではないか。我々の人生に突如立ちはだかる壁やハンディキャップは、個々人の後天的な努力によって必ず乗り越えられる。それどころか、むしろ一見壁に思えることが確かな力やバネになると僕は信じていますし、そのことを、自分の生き様でもって皆に伝えたい。だから、辛くても頑張れる。

 自分が現在進行形で努力し続けることで、そして、それによって目に見える分かりやすい結果を出すことによって、同様の境遇を持つ子どもたちを励ますことができる。それが今、物凄く強いモチベーションになっています。最近、児童養護施設を訪れることがあるのですが、僕と同様に幼くして両親をなくしたり、虐待を受けて親から離れたりしている子に「逆境が武器になることもあるんだよ。自分や、自分の人生を嫌いにならないで」と伝えて回っています。それによって、僕と同じような、いや恐らく、それ以上に苦しい運命にぶち当たってしまった子どもたちに、少しでも、「マイナスをテコに、大きなプラスに反転させる勇気」を渡せたら、という願いです。

 モチベーションの観点で言うと、日々の「内省」も大きいと思います。内省を繰り返しているうちに、「自分はこの目標を絶対に達成するんだ。これは、ライフミッションなんだ」と自らを奮い立たせることができ、それによって、エネルギーが枯れることはありません。

メモを使って、自分の毎日を見つめ直す
メモを使って、自分の毎日を見つめ直す

―― その「内省」とは具体的にどういうことなのでしょうか。

前田 日々の生活の中で自分についてじっくり考える時間を持つことです。毎日内省を繰り返していると、例えば取引先が話を聞いてくれなかったな、といったときでも、「うまく話せなくて悔しかったな」「今度はこう話そう」と気持ちを切り替えられます。

 言うならば、失敗してもへたりこむのではなく、背もたれのある椅子に腰かけられる感じ。では、その「背もたれ」とは何か? これは人それぞれ異なります。僕の場合は割と右脳的というか、直感的で、映像ベースで背もたれを持ちます。つまり、頭の中に「悔しかった」「こうしておけば」ということを動画で思い浮かべる。これが、頑張ろうという、“モチベーションスイッチ”になっている。大事なのは徹底した内省と、それによる深い自己理解。そして、それらをベースに、何があっても何度も立ち上がる力ですね。