アーティストやアイドルの配信を無料で視聴・応援でき、同時に誰もが配信者にもなれる仮想ライブ空間「SHOWROOM」。前田裕二さんは創業社長であり、著書である『メモの魔力』(幻冬舎)、『人生の勝算』(幻冬舎)もベストセラーに。8歳で母親を亡くし、「運命に対する憤り」を感じながらも努力を重ね、画期的なビジネスを生み出すにいたった仕事術と思考法、そして迷えるdoors世代に向けてのメッセージを聞きました。

「相手から好かれる前に、その人を好く」を徹底する前田流仕事術

日経doors編集部(以下、――) 前田さんは「人とのつながり」「人とのコミュニケーション」をとても大事にされているとうかがっています。それはSHOWROOMを立ち上げられる以前から心がけていたのですか。

前田裕二さん(以下、前田) そうですね、人同士の絆の重要性は、新卒時代から自分が最も意識していることの一つです。ファーストキャリアとしてUBS証券に入社しましたが、このときに強く、人とのつながりの大切さを感じました。他社もあるなか、なぜクライアントがUBSを選んでくれるかというと、「〇〇さんがいるから」という理由がほとんど。今はインターネットで瞬時に情報が伝わる社会なので、正直なところ、各社が提供できる情報量やクオリティーでそれほど差をつけられない。そうしたときに商品を買ってもらう最後の決め手となるのは結局、「人」なんだ、と実感しました。

 また、最初は、新卒で付加価値を提供できぬゆえ、ほとんどのお客様と電話でお話しすることすら許されないような状態が続いたのですが(笑)、あるお客様とは仕事で関係を持つ前に、飲みに行ったり、バンドを組んだり、とにかく少しでも多くの時間を一緒に過ごせるようにしました。そして、いつしか、僕自身、その人のことが大好きになり、四六時中相手のことを考えるようになった。その甲斐あってか、お客様側も自然と時間を割いてくださるようになり、僕の電話にも出てくれるようになりました。よく「仕事術」というけれど、そこには必ず人が介在し、人と人との結びつきによって意志決定が行われている。「術」などというテクニックを考える前に、まず大前提として最も忘れてはいけないポイントかなと思います。

相手のいいところを見つけようと働きかけると、相手も心を開いてくれるという
相手のいいところを見つけようと働きかけると、相手も心を開いてくれるという

―― 「コミュニケーションが大事」とは分かっていながら、「なかなか仲良くなれない」「距離の取り方が分からない」という人もいると思います。どうしたら一歩を踏み出せるでしょうか。

前田 「自分が相手に好かれる」ことって、コントロールしにくいですよね。だって、究極、他人の気持ちですから。こればっかりは思い通りにはいかない。でも、自分の感情ならどうでしょう。自分がまず相手のことを肯定的に受けとめて、「この人のいいところはどこだろう?」と、ポジティブメガネをつけて見つめてみる。これなら、自分のことなので、訓練次第で誰でもできます。そして、自分のことを好きでいてくれる人を嫌う人はそうそういないので、これを継続するうちに、次第にこちらに心を開いてくれるのではないかな、と思います。もちろん、毎回「この人のいいところを見つけるぞ!」と心のポジティブスイッチを押していると、気力・体力を消耗しますよね。でも、継続は力なりとはよく言ったもので、時間経過とともにだんだんと習慣化していって、気づいた頃には、カロリーを使わずに割と自然にできるようになります。例えばタクシーに乗っても、ゲーム感覚で「この運転手さんのいいところはどこだろう?」と無意識のうちに探している、というようなイメージです。

―― タクシー運転手さんのいいところ探しまで! そうやって人のいいところを見つけると、仕事もうまく進みそうですね。

前田 そうですね。改めて「ビジネスにおける成功とは?」と考えてみると、営業なら人を説得してその結果契約をたくさんとること、企画なら自分の企画が多くの人に影響を与えること、などですよね。つまり、どんな仕事でも、大きなインパクトを残すにはまず何より「人の心を動かすこと」、そしてその結果として「人を巻き込んでいくこと」「人にサポートしてもらうこと」が必要不可欠。つまり、常に根底には、「人」がある。

 仕事で成功するには、「ハード面(スキルや理屈)」と「ソフト面(人柄や文脈)」の両方が必要ですが、現代においては、ソフト側の重要性がより増しています。例えば以前は、アイドルやアーティストでも「歌やダンスがいい」「かわいい」といったハード面のみで十分人気を伸ばせましたが、今はそれだけではなくて、「人間性にひかれる」「応援したくなる背景がある」といったソフト面も、ハード面と同等かそれ以上に重視される時代になってきています。要は、「愛され力」と言ってもよいのかもしれません。愛される人、すなわち、人気や共感が集まるところに当然仕事が集まり、経済効果も生まれることになります

―― それは一般企業にも通じますね。

前田 まさに。たとえば、「エクセルで資料を作って」と言われたときに、今はエクセル自体が高性能で、かつ、そもそも必要な資料は大方ネットで(しかも瞬時に)集められます。ここで、みんながそれほど大差のない資料を作れるとき、「誰を評価するか」となると、やはり「一緒に仕事をしたい人」「どんどん仕事を振りたくなる人」、つまり人懐っこくてチャーミングな人なんじゃないかなと。そして、「チャーミング」を構成する要素の中で最もクリティカルなものを挙げるならば、僕は、「相手から好かれるよりも前に、まず全力で今向き合っている人を好きになれる明るさや前向きさ」だと思います。