思いがけず、女友達にカミングアウト

七崎 少しだけスッキリした感じはありましたが、すべてが解決するわけではありません。ゲイだと認めた上で、「これからは人を好きにならないように、バレないように生きていけばいい」と思っていました。ただ、それは「結婚すること」や「家庭を築くこと」を諦めることでもあります。友人にも家族にも言えない状況には変わりがなかったので、やはり気持ちが完全に晴れることはなかったですね。

―― 現在はゲイであることを公表して活動されていますが、友人への最初のカミングアウトは、意図したものではなかったそうですね。

七崎 はい。ゲイだと自認した直後に、同棲していた彼氏と別れた女友達と飲む機会があったので、慰めながら、ずっとその子の話を聞いていたんです。でも、徐々に「なんてぜいたくな悩みだ」と思えてきて。

 彼氏と別れてかわいそうだと感じる一方で、「好きな人と付き合えた期間があったんだから、少なくとも自分よりは幸せなんじゃないか」という気持ちが湧きあがり、思わず、「自分は好きな人と付き合うことも、ましてや一緒に暮らすことも諦めているのに、ぜいたくな悩みだ! 振られて傷ついているのは分かるけど、いつまでもグチグチ言わないで!」と、その場でカミングアウトしてしまったんです。

―― 友人の反応はどうだったんですか?

七崎 数秒は驚いていましたが、否定せずに、受け入れてくれました。「それはつらかったよね」と言ってくれて。その言葉を聞いたときに、涙がボロボロこぼれて、「今まで自分はつらかったんだ」と気づけたんです。

 例えば、知らず知らずのうちに視力が低下していて、初めてメガネをかけたら「自分はこんなに見えてなかったんだ」と驚く感覚というか。誰にも言えず、ずっと一人で抱えていたので、当時はつらいという自覚すらなかったんですよね。

 人に言えば否定されるだろうと思い込んでいたので、「分かってくれるんだ」と驚きました。誰もが受け入れてくれるとは限らないので、本当に、すごく運がよかったと思います。理解者を得たことで、一人で抱えていたときよりも、気持ちは格段に軽くなりましたね。この経験があったから、徐々に身近な人たちにカミングアウトしていくことができ、優しい言葉をかけられるたびに、恐怖心が薄れていったのだと思います。

東京だけでなく、山梨でもLGBTの理解促進や活動支援をしている七崎さん。山梨の豊かな自然を背景に、オンラインで取材に参加してくれました
東京だけでなく、山梨でもLGBTの理解促進や活動支援をしている七崎さん。山梨の豊かな自然を背景に、オンラインで取材に参加してくれました