浪人も上京もできない女子生徒たち

 「日本の教育は男女平等だ——、というのはとんでもない勘違い」

 そう話すのはジェンダー論を専門にする瀬地山さん。世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」を見ると、日本は初等教育(小学校)と中等教育(中学校・高校)の在学率こそジェンダーギャップがないものの、高等教育(大学や専門学校など)の在学率になると「男性 65.1」「女性 62.0」という差がつきます。中等教育まではジェンダーギャップのない状態を示す1位に位置しているのに、それが高等教育の話になった途端、149カ国中103位にまで落ちてしまうのです。

 東京大学で女子学生が最も多く出席する授業を担当している瀬地山さんは、データだけでなく肌感覚でも、いまだに女性が自由に学べる時代ではないことを実感しているといいます。

 「2003年の小泉内閣の時、『202030』という2020年までに指導的立場に占める女性の割合を少なくとも30%に引き上げようという目標値ができました。以降、東京大学でも女性の入学者30%を目指してきましたが、いまだに20%すら達成できていない状況。これは、北京大学やソウル大学と比べても低いです」(瀬地山さん)

「いまだに女性が自由に学べる時代ではない」(瀬地山さん)
「いまだに女性が自由に学べる時代ではない」(瀬地山さん)

 実際に瀬地山さんが東京大学の女子学生に話を聞くと、何人かは「私は入学できたからよかったけど……」と言葉を詰まらせるのだそう。彼女たちの高校時代の友達の中には、東京大学に受からなければ、地元の国立大学に行くしかない(東京大学と地元の国立大の間には、彼女たちほどの実力があれば合格できる大学が数十はあったにもかかわらず)、浪人は許されない、そもそも上京すら許されない……といったように、能力があるのにチャンスを与えられない女子生徒が存在しているといいます。

 少しでも女子生徒の入学への障壁を軽減しようと、東京大学は女子学生向けの住宅支援制度を導入しました。それに対し「女性ばかりを優遇するのは逆差別だ」といった声も上がっていますが、瀬地山さんはそれを一蹴。「これを逆差別という男性は、自分が履いている下駄の高さを分かっていない」と言います。

 弁護士の佐藤倫子さんは、「私も地方に住んでいるので、女子に対する『あなたは(女の子だから)そんなに限界まで頑張る必要はないよ』という空気感はよく分かる」と続きます。

 一方、東京出身の小島慶子さんも自身の経験をこう振り返りました。「私は中等科から学習院でしたが、大学で早稲田を受けたいと言った時、両親から『女の子だから苦労しなくていいように、せっかく学習院に入れたのに』と言われました。当時の私はその『女の子だから』に納得しました。一部の女性も、学力よりブランドが大切だと思っていた部分もあったのかもしれません」

「私も、親の『あなたは女の子だから』というフレーズに納得した経験がある」と語る小島さん
「私も、親の『あなたは女の子だから』というフレーズに納得した経験がある」と語る小島さん