メンターになるということ

 シンガポールのSoo Boon氏はVC業界で30年の経験があり、M&Aなども多く手掛けてきた。女性を企業の取締役に多く推挙しているという。「VCは女性に向いていると思う。辛抱強いからだ

 最初は謙虚に学び、その後やり方を変えるのも自分次第だと話す。メンター(指導者)になった今は、投資先の優秀な学生などに、近道して事業成功を実現する道を一緒に歩こうと話しているという。

 Hyunjoo氏は、「韓国では、リーダーシップはジェンダーなどバランスよく、多様化したものでなくてはならないという認識が強くなっており、リーダーとして社外取締役などに入ってほしいと自分へ声が掛かる。韓国は家父長的な文化で、若い女性はまだ(リーダーとして)予想がつかないとみられている。自分は、他の女性たちにこうした役割を担ってほしいと求めているところだ」と話した。

投資分野はどんなところ?

 今、どんな産業にVCが興味を持ち、投資をしているのかを、VCのトップであるHyunjoo氏とSoo Boon氏が語った。

 インパクト投資に人々の関心が高いと語るのはHyunjoo氏。Yellowdogはインパクト投資にフォーカスしており「(韓国で進行している)高齢化などの社会的問題解決を図りつつ、経済を発展させることが大事だと考えている。ヘルスケア、オンデマンド経済、インフラ関連などの他、プラスチック廃棄や悪臭といった環境破壊、気候変動、食糧問題は社会にとって重大事だ」と述べた。

 Soo Boon氏は「昨年(2018年)、日本で初めて投資を行った(編注:ドローン会社への投資を指す)。スマートシティー、インシュアテック(テクノロジーを活用した新たな保険商品)、フィンテックが時代に乗っている」と指摘した。「私たちはリスク、それも計算されたリスクを取っている。(VCは)学ぶコミュニティー。ぜひ一緒に学びましょう」と締めくくった。

会場から「女性起業家をサポートする団体はあるか」と質問が。「たくさんの女性支援のためのNGOがある」「ジェンダーレンズ(ジェンダーやダイバーシティを判断に使うアプローチ)投資は現在、勢いがある分野だ」などと最新の傾向も聞かれた
会場から「女性起業家をサポートする団体はあるか」と質問が。「たくさんの女性支援のためのNGOがある」「ジェンダーレンズ(ジェンダーやダイバーシティを判断に使うアプローチ)投資は現在、勢いがある分野だ」などと最新の傾向も聞かれた

古くて新しい「家事に苦しむ女性」

 ディスカッションの始めに、モデレーターが、ニューヨーク・タイムズ(電子版)に掲載された記事を取り上げた。「Japan's Working Mothers: Record Responsibilities, Little Help From Dads」(2019年2月2日掲載)というタイトルで、子育て中の二人の日本人女性が過ごす過酷な日々に照準を当て、家事、仕事に忙殺されている様子を多くの写真とともに紹介している。「30年前となんら変わりがない」「写真を見ただけで極度の疲労が分かる」などとコメントが書き込まれ、レコメンド数も600件ほど付いた。

 村上氏は「家事負担の悲哀を描いたこの記事はまるで16世紀の『暗黒時代』のようだ」とした上で、「女性が『(仕事も家事も)私がやらなくてはいけない』という責任感を抱いているのは世界的な状況だ」と指摘。ただ、女性が活躍できるような施策を考える際には「男性・女性、両者にとっての問題だと捉えないと議論が深まらない」と強調した。

取材・文/中川真希子(日経doors編集部) 写真/花井智子