ベンチャーキャピタル(VC、投資会社)界に携わる女性が増えないものか――女性取締役を対象にしたイベントが2019年2月に開催され、VC界における女性の役割についてディスカッションが行われました。

 イベントの主催は米国のWomenCorporateDirectors(WCD)Asia-Pacific Institute。WCDは米国に本拠を置き、さまざまな企業で取締役などを務める女性のメンバーで組織された世界最大の団体で、メンバーが参加する取締役会の数は世界中の上場および非上場企業8500以上に上ります。女性取締役のネットワークを強化することや、女性によるリーダーシップを高めることなどを目標に、世界80支部で独自のプログラムやイベントを展開しています。

 日本からはOECD(経済協力開発機構)東京センター所長の村上由美子氏がパネリストの一人として登壇しました。同氏は、スタートアップの立ち上げを資金面で支援し、将来の業界を形づくるのに重要といわれるVCは、「女性がとても少なく男社会」と断言します。アジア出身の女性ベンチャーキャピタリスト二人と、まだ男社会であるVC業界でどのようにして女性が存在感を発揮していけばいいのか、話し合いました。

WCDが開いたプログラムの1つ「Investing in the Future -- Venture Capital and the Role for Women」の様子。1時間にわたり活発な議論が続いた(東京都内、2月22日)。WCD東京支部は米国以外で最大規模を誇り、100人以上の女性取締役が参加する。日本での開催は2015年以来2度目
WCDが開いたプログラムの1つ「Investing in the Future -- Venture Capital and the Role for Women」の様子。1時間にわたり活発な議論が続いた(東京都内、2月22日)。WCD東京支部は米国以外で最大規模を誇り、100人以上の女性取締役が参加する。日本での開催は2015年以来2度目

投資で将来の地図をつくる

 女性取締役を推進する団体がなぜVCをトピックに取り上げるのか。口火を切ったのはシンガポールVCを率い、米国のシリコンバレーで活躍するSoo Boon Koh氏だ。同氏はVCが重要な役割を担っている背景として二つの大きな変化があるとした。一つはシェアエコノミーの台頭、二つ目は自動車業界の変革で、デジタルディスラプション(創造的破壊)は避けて通れないと説明した。

 韓国のHyunjoo Je氏は、ベンチャーキャピタリストはトレンドを注視して有望な事業に投資するのであり、その投資が将来の業界地図をつくっていくからだとした。同氏は韓国でも数少ない女性CEOとしてVC「Yellowdog」を率いて、社会的問題の解決とリターンを求める「インパクト投資」を手掛けている。

 村上氏は、特に女性の少ないVC業界や起業において、女性たちにとって大事なのはロールモデルを見つけることだと述べた。

OECD東京センターの村上由美子所長。ゴールドマンサックスやクレディ・スイス証券に勤務した経験がある
OECD東京センターの村上由美子所長。ゴールドマンサックスやクレディ・スイス証券に勤務した経験がある

投資家に女性が増えることの意味

 ベンチャーキャピタリストや起業家に女性が増えると、どんなことが起きるのか。女性投資家の割合が増えれば、女性起業家が資金調達できる可能性が高まるという統計がある。村上氏は「投資家と起業家、両方に女性が増えることが大事」と述べ、「女性起業家は男性起業家より目立たないのは事実だが、機会や励ましが与えられれば、男性起業家よりも大きいリターンが生み出せる」と話した。

 村上氏は「事実を知り、事実を議論することが説得力を持つ」と強調する。米国では、女性が運営する事業が生むリターンは(男性のそれと比べて)高いという調査が複数あるという。こうした事実は、女性は起業に不利だとか、男性起業家より劣っているといった、投資家の誤った考えを変える、と村上氏は期待する。

 村上氏の指摘によると、女性起業家や女性によるスタートアップは、男性起業家と比べるとVCからの資金調達の額は小さく、VC投資全体の2%程度だという。「投資や(資金を受けて起こる)イノベーションが男性によってコントロールされているなら、女性は自らの可能性を限定することになり、社会も、それ自身にとって可能性を限定している」と警鐘を鳴らす。

 「女性によるビジネスの規模が男性のそれよりもずっと小さく、成長の潜在性についても、男性のほうが大きい絵を描く傾向がある。彼らが信頼できるかどうかは別として(笑)、国が違っても同じ現実がある。そうした結果を示す調査もある。原因にあるのは偏見や教育の影響あるいは社会的、文化的要素なのか、それとも複合的なものなのかもしれない。なぜ20億ドルではなく、200万ドルの売り上げを目指してしまうのか、私たち自身が考える必要がある」。村上氏はそう聴衆に語り掛けた。

自信を持てばリスクテークできる

 次世代の女性が自信を持ち、積極的になるにはどうすればいいか。パネリスト全員が教育の重要性を説いた。

 村上氏は、幼少時に自信を持つように育つ環境が、その後の人生において、リスク選好を決めると話した。「自信を持つようになる教育や励ましを受ければ、女性は大きく成長することが分かっている。リスクテークに臆することがなくなり、起業意欲にもつながる」と述べた。そして同じ成績水準を持つ少年と少女の2グループを観察したある調査を引いた。試験前に「これから受ける試験は易しい」と伝えておくと、少女グループは大きく伸びたのだという。少年のグループも伸びたが、少女たちほどではなかった。

 韓国のHyunjoo氏は「教育は将来の唯一の指針だ。ジェンダー問題は教育から始まる。教育で偏見を排除しなければならない」と述べた。ベンチャーキャピタリストの一人として多くの起業家を見てきた同氏は、「一般的に女性の起業家は人を失望させるのを怖がるので、だんだんとトライしなくなる。またVCを説得して資金を得ても、もはや個人ではなく女性起業家の代表として見られるので、社会的プレッシャーが高い」と指摘した。

左から韓国VCのYellowdogでCEOを務めるHyunjoo Je氏、シンガポールVCのiGlobe Partners創業者兼マネージングパートナーとしてシリコンバレーで活躍するシンガポール出身のSoo Boon Koh氏、村上氏。VCでの経験などそれぞれの知見を披露
左から韓国VCのYellowdogでCEOを務めるHyunjoo Je氏、シンガポールVCのiGlobe Partners創業者兼マネージングパートナーとしてシリコンバレーで活躍するシンガポール出身のSoo Boon Koh氏、村上氏。VCでの経験などそれぞれの知見を披露