「本当にやりたいこと」が「やるべきこと」に埋もれていくのが苦しかった

──その後、ヘアメークの道に転向されたのはなぜですか。思い切ったキャリアチェンジですよね。

岡山 就活イベントの実施で全国出張が多く、平日に振り替え休日がたくさんあったので、その時間を活用するためヘアメークスクールに通いはじめました。仕事は楽しかったけれど、もともと好きだった「絵を描くこと」や「何かを生み出すこと」をしたくなったんです。子どもの頃は漫画家になりたかったのですが、「絵では食べていけない」と大人に言われたことがトラウマになり、このときは選択肢に入りませんでした。就職して3年半ほどで会社を辞め、フリーランスのメークとして2年間、その後は起業してヘアメーク事務所と、短期間でプロを養成するメークアップスクールの経営を始めました。

岡山さんのキャリア
●新卒で求人広告サービス会社に入社。人事部に配属
●休みの日を利用してヘアメークスクールへ通う
●3年半勤めた求人広告サービス会社を辞め、フリーランスのヘアメークを2年間続ける
●その後、起業してヘアメーク事務所とプロ育成のメークアップスクールの経営を始める

──会社を辞めるときは迷いませんでしたか?

岡山 初めは迷いましたよ! 収入はどうなるんだろう、日々の生活はどうするんだろうと、不安でした。でも、会社を辞めることのメリット・デメリットを書き出して整理したら、メリットのほうが上回りました。何より、会社員として役割と任務を果たす日々の中で、「本当にやりたいこと」が、仕事という「やるべきこと」に埋もれていくのが苦しかったんです。結局、「20代のこの期間は今だけだ!若いうちならやり直しも効く」と、退職を決意しました。

──いきなり起業というとハードルが高いと思いますが、もともと物おじしない性格だったんですか?

岡山 物おじしないのは、自分のいいところでもあり、悪いところでもありますね。赤ちゃんがお腹がすいたら泣くように、「これがやりたい!」と思うと他のことが目に入らなくなるんです。Googleで「会社 登記 やり方」と検索して、思い立ってから2カ月ぐらいで起業しました。そうしたら最初は資金繰りなどが大変で。友達に「資金繰りに苦労している」と打ち明けたら、「そんなの知ってるよ。だからみんな安易に起業しないんだよ」と教えてくれました(笑)。

 ただ、赤ちゃんのように本能のまま、思ったまま行動すると、周囲と摩擦が起きますよね。10代の頃は私が物事に対してハッキリ意見するので、「(岡山さんに)こんなことを言われた」と女友達に問題視されたことがありました。先生に対しても「この校則はおかしいと思います」と言って代替案を持って行くので、「面倒くさいヤツ」と思われ、目をつけられたことも……。

 周囲とうまく付き合えなくなった私は、自分の思いや夢を語らなくなり、声をミュートにしていました。20代は、自分の本心に蓋をして、内心は荒れまくっていました。「自分が本当に望むことをやりたい!」というアクセルを踏みながら、「そんなことをしたら、また周囲と摩擦が起きる」と、ブレーキを踏んでいるような状態でしたね。

漫画のアイデアは鉛筆で、ノートに書き出す。その後、「CLIP STUDIO」というソフトを使い、iPadで漫画を描く
漫画のアイデアは鉛筆で、ノートに書き出す。その後、「CLIP STUDIO」というソフトを使い、iPadで漫画を描く

夢は「北極星を見つける3ステップ」でかなう

──日経doorsの読者世代でも「人目が気になって、やりたいことができない」という人は多いと思います。

岡山 私も気にするタイプではあります。でも、いつかやるなら、今やったほうがいいと思うんです。20代に「赤ちゃんの心」は大事です!

──「自分が何をやりたいか分からない」人は、どうしたらいいでしょうか。

岡山 オススメなのは断捨離です。いらないものを全部捨て、最後に残ったものが「自分が好きなもの、求めているもの」。断捨離を通じて、自分の取捨選択の基準が明確になります。いきなり断捨離するのが難しければ、「自分で判断するクセ」をつけるといいですね。大それたことではなく、「今日のランチは、カレーかパスタか」ぐらいから始めて、「自分が本当に望むこと」と向き合う練習をするといいと思います。

──なるほど。ずっと本心に蓋をしていると、そのうちに「これをやりたい!」というパッションが枯れてしまいそうですよね。

岡山 そうですね。だから、私は会社を辞めて、一歩を踏み出したんだと思います。30代になってからは、小学生時代の夢である漫画家を目指し始めました。思い切って、出版社に持ち込んだこともあります。そうしたら編集者の方が丁寧にアドバイスをしてくれてありがたかったのですが、出版社経由で漫画家になるには、新人賞に応募し、激戦を勝ち抜き、新人賞を受賞、そして読み切りを掲載し、読者アンケートの評判が良ければ、連載スタート……と果てしなく道のりが遠いことを知りました。「それなら自分でInstagramに漫画を投稿しよう!」と投稿し始めたら、フォロワーが増え、本を2冊出すことができ、漫画家になるという夢がかないました。

岡山さんのアドバイス
●「いつか」やるなら、「今」やる!
●断捨離をして「自分が好きなこと」「やりたいこと」を深掘りする
●北極星(本当にやりたいこと)を探し、手段を選ぶ。そして、実行に移す!

 私は「本当にやりたいこと」を「北極星」と呼んでいますが、夢をかなえるには3ステップで考えることをお勧めします。ステップ1は「北極星」を探す=「どうしたいか」を明確にする。ステップ2は「気球を探す」=北極星に到達する手段を選ぶ。ステップ3は「気球に乗る」=実行する

2019年3月には、自身の体験をもとにしたコラム『オトナの決断力』(KADOKAWA)を出版
2019年3月には、自身の体験をもとにしたコラム『オトナの決断力』(KADOKAWA)を出版

 このときに「北極星(夢・目標)」を見ないで、「気球(手段)」ばかり見てしまうと、「どの気球に乗ったらいいか分からない」「どの気球が北極星までたどりつくか分からない」と悩むことになってしまいます。

 「夢がかなわない」のではなく、実は「行動してなかっただけ」かもしれません。自分の北極星を見つけて、迷わず気球に乗りましょう!

今後は「(読者の方が)恋も仕事も楽しめるような漫画を描きたい」という岡山さん
今後は「(読者の方が)恋も仕事も楽しめるような漫画を描きたい」という岡山さん

取材・文/三浦香代子 写真/鈴木愛子 構成/浜田寛子(日経doors編集部)