あなたの心の支えは? 「シング・ストリート」

 2本目は「シング・ストリート 未来へのうた」。80年代、大不況のアイルランド、ダブリンを舞台に、14歳の男の子のコナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)が閉塞的な毎日の中で、音楽と恋に出合って夢中になり、自分の未来をつかみ取ろうとする物語です。

 劇中、崩壊まで待ったなしで父と母が大げんかばかりの家庭と、弱い者いじめがまん延する学校で、息もできないような閉塞した毎日を送るコナー。全く同じ境遇だという人は少ないかもしれませんが、思うようにいかず、ため息をつき、しんどい毎日をどうにかやり過ごしたことがある人はきっと少なくないはず。

 そんな時、夢中で読んだ本や、胸を痛めて聴いた音楽が、どれだけ心の支えになったか、覚えていますか。恋や、大好きな人の一言、分かり合える仲間の存在、忘れられない出来事、一つの曲、小説の一編……。それらが胸の内で何度もくり返し再生するたびに、かけがえのない大切な宝物に変わる。それが、ただのモノや事象から、自分にとってのかけがえのない信念や祈りに変わるとき、内側からその人を強くし、輝かせるのだと思います。

(C) 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
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 平成に変わったばかりの頃に学生時代を送っていた私は、話の合う友達も見つけられず、部活も苦手。「つらいことばかりなら、あきらめてかまわない」と歌う岡村靖幸を爆音で聞きながら独り、田んぼだらけの道を「青春って1.2.3ジャンプ」してたっけ。

 その後も、通学する電車の中でフリッパーズ・ギターの曲にある「ティーワゴンが滑り出していく世界」を想像してみたり、「今夜、俺はロックンロールスター!」と高らかに宣言するOasisに憧れてみたり、社会人になってからもPerfumeの「Dream Fighter」をカラオケで熱唱して、うまくいかない仕事の鬱憤を晴らしたり……。

 しんどい時、グッとくる歌詞の曲や、今見えている世界とは全然違うものを見せてくれる曲を聴くことで、勇気づけられた結果、今はあの頃より少し、強くなれたかもしれません。

 コナーもしかりで、最初はおどおどして頼りなかったのに、音楽に出合って信念を胸に秘め、自信をつけてからの彼は、いつの間にか見違えるほど堂々としてカッコいい男の子になっているのです。

 コナーの組むバンドが奏でる楽曲をはじめ、ザ・キュアーやザ・ジャムなど、劇中で流れる音楽も非常に素晴らしく、特にラストシーンで流れる曲は、涙なくしては聴けないほど。フレッシュなコナーの頑張る姿とともに、あなたに元気をくれることでしょう。


 今回は、【学校では教えてくれない「旅立ち」のこと】をテーマに、なにかにチャレンジするときや、ちょっと元気が欲しいときに見て、パワーをもらえるような映画をピックアップしてみました。動画配信サービス等で気軽に見られるので、ぜひご覧くださいね。

文/榎本志津子(映画コラムニスト) イラスト/六角橋ミカ