最近誰かに褒められていますか。もしくは「よく頑張っているよ」と自分自身を褒めてあげていますか。今日は、幼い頃に身寄りを亡くし、孤独と闇を抱えつづけた天才チェスプレーヤー・ベスの人生をスタイリッシュに描くドラマ『クイーンズ・ギャンビット』をご紹介します。ずっと誰かに認められたかったであろう、彼女の数奇な人生とは一体ーー。

薬と妄想が無二の親友 はみ出し者ベスの魅力

 舞台は、1950年代後半から1960年代にかけての米国。人種差別、男女差別、性的指向の違いに対する差別が多く見受けられた時代です。こんな時代に生まれたのが主人公のベス・ハーモン。幼い頃に事故で母を亡くし、ケンタッキー州の児童養護施設へと送られますが、「子供たちの精神を安定させるために」と処方された精神安定剤がきっかけで、薬物中毒に陥ってしまいます。

 現実と幻想の境目が曖昧な状況で、唯一「楽しい! やりたい!」と衝動を突き動かされたものが「チェス」でした。児童養護施設の地下室で出会った用務員に初めてチェスを教えてもらったベス。チェスへの興味は、里親が決まり、施設を出てからも続きます。

 里親の家でチェスを買ってもらえず、一度はチェスボードに触ることさえできなくなりますが、知恵を絞り、チェス大会へ応募。そこでベスは、「女のくせに」と、男性優位なチェス社会の洗礼を見事にうけますが、当の本人はなんのその。自分をばかにした相手を次々と打ち負かしていきます。そして一言。「もっと強い人と戦いたい」。このシーンは、筆者のお気に入りの一つでもあり、意表を突かれた男性たちの表情にスカッとするシーンでもあります。

 そこからのベスは、水を得た魚のようにチェス大会で勝ち進め、あっという間に上位層へと食いこみます。上位層から米国ナンバー1へ、そして世界の頂点へと勝ち進めていく様子が、ベスの不安定な精神状態と、恋愛や友情と共に描かれるのが、この作品の主なストーリーラインです。

 チェスゲームの奥深さ、1950~60年代の米国という時代背景がストーリーに重みを与えてくれるものの、この作品の一番の魅力は、なんといっても主人公のベス・ハーモン。彼女そのものです。

 薬と妄想を無二の親友とし、美しいはみ出し者へと成長するベス。彼女のキャラクターを2つのワードで表現するなら、「孤独」と「承認欲求」だと筆者は考えます。