『マーベラス・ミセス・メイゼル』

幸せのスペックは「私」が決める

 このドラマの舞台は1950年代後半のニューヨーク。女性の幸せが、「いい大学を出て、いい伴侶を見つけて、子どもを産んで、裕福な生活を送る」ことに限定されていた時代。当然、この黄金のハピネスルートから外れると、世間からは「かわいそうな女性」と見られるわけで、夫が不倫し、離婚するに至ったこのドラマの主人公ミリアムも例に漏れずその存在。

 でも、当のミリアム自身は自分のことを「夫に捨てられたかわいそうなバツイチ」とは全く思っていません。不倫した夫を許し、愛していないのに一緒に居続けることこそ、一番惨めだと思っているから。

 そんなミリアムですが、ただひとつ周囲には言っていないことがあります。それは生計を立てるために、小さな劇場に立ち、トークで観客を盛り上げ笑わせるコメディエンヌ(漫談師)の仕事をしていること。初めは家計の足しにもならなかったけれど、働くことが楽しくて仕方がないミリアム。お嬢様育ちの彼女は、「離婚」をピンチではなく、生まれて初めて、自分の意思で人生を切り開くチャンスだと捉えます。自分を幸せにするのは、ステータスではなく自分自身だと、彼女は知っていたのです。

 ここでふと思ったことがあります。私自身、結婚し幸せな毎日を送っていますが、もし夫の不倫が発覚したら、私は離婚に踏み切れるだろうかと。

 私たちは、誰かの娘であり、妻であり、恋人でありと、ステータスも役割も無限です。でもそれらすべての前に、「私は私」。「私」とだけ仲良くできていれば、どんな災難が降ってきてもきっと対処できるはずと、今は思うのです。

 人生20年30年と生きていると多かれ少なかれ嫌なことは起こります。それは避けられない事実。でも何かが起こったとき、それをどう感じ、どのように対処していくかが幸せへの分かれ道。冷静で正確なジャッジをするためには、まず自分に自信を持ち、自分を愛してあげる必要があるのだと気付かせてくれます。

『マーベラス・ミセス・メイゼル』
Amazon Prime Videoでシーズン1~2を見放題独占配信中。

 どちらの作品も、共通して伝えたいメッセージは「頑張り過ぎないで。自分を信じて、しっかりと自分を愛してあげて」。
 なんでもない日常はもちろん、何かに迷ったとき、不安になったときにぜひ見てみてくださいね。

文/伊藤ハルカ イラスト/六角橋ミカ