人は、生まれ落ちたところからは逃げられないのか。インドの田舎にある貧しい村に生まれ、そこから抜け出したいとあがいた、ひとりの男がたどり着いた結末とは――? インド映画といえば、歌と踊りと豪華絢爛(けんらん)な衣装や舞台、というイメージがありますが、今回はひと味違ったNetflixオリジナル作品、『ザ・ホワイトタイガー』をご紹介します。

インドの「今」を描く映画

 原作は「グローバリズム出づる処の殺人者より」というイギリスの文学賞であるブッカー賞を受賞した小説なのですが、映画化された本作も2021年アカデミー賞脚色賞にノミネートされています。犯罪者であり有名な起業家でもある主人公バルラムが、インドを訪れる中国の温家宝首相に宛てたメールで自分の半生を書き、それを読み上げる形で物語が展開し、インドにおける雇用主と使用人の関係、ムスリム(イスラム教徒)とヒンドゥーとの宗教的対立、カースト制度、教育や貧富の格差などが描かれていきます。

 これまでインドについて「ガンジス川、カースト制度、男尊女卑、世界第二位の人口の多さ、多宗教、カレー」くらいの知識しかなく、最近は「新型コロナウイルスの深刻な感染状況」が追加された程度だった筆者ですが、バルラムが物語を語り始める場所、バンガロールについて調べてみると、欧米の有名IT企業はほとんどが支社を持っており、現在、インドは優秀なエンジニアが多数いて、国際的な研究開発も進むIT大国であることを知りました。冒頭にバルラムが、同じように経済成長著しい中国の首相に宛てて「これからは茶色(=インド)と黄色(=中国)の時代です」と言うのは、まさに現代の情勢を示した言葉なのです。