キーワードは「アイデンティティー」

 本作では、テーマごとに1〜2着の洋服が作られる「ファッション」を題材にしていますが、本当のテーマは「アイデンティティー」のように感じます。

 どの出場者も最高の一着を作り上げますが、そんな大接戦の中で勝利の決め手となるのが、「自分が生まれ育った環境」や「カルチャー」「価値観」です。その大切にしているものを、いかにデザインに込められるか。一着を見ただけで、どれほどのビハインドストーリーを伝えられるか、が勝負を左右するのです。

 特に、中国出身のエンジェルと韓国出身のミンジュのペアに注目して見てください。蛍光色を好んで使う2人のデザインは、どれもユニークでビビッド。審査員をくぎ付けにします。なぜこのペアにここまで心打たれるのか? それは、彼女たちは新しさの中に「自分らしさ」をたっぷりと込めているからなのです。一着を通じて彼女たちの「思い」が伝わってくるのですね。

注目は、中国出身エンジェルと韓国出身ミンジュのペア
注目は、中国出身エンジェルと韓国出身ミンジュのペア

 その他の出場者も、ゲイであることを親にカミングアウトできずにいたり、ミュージシャンへの道を諦めたりとさまざまな過去を背負って今この場に立っています。そんな人生の苦さだったり、楽しさだったりを隠すことなく惜しみなくカメラの前でさらしながら、それを服に込めていく。

 その過程を追った上で、ランウェイでの彼らの作品を見ると感動で胸がいっぱいになります。美しく洗練された一着を作ることだけがゴールではない。自分にしかないストーリーをその一着にどれだけ込めることができるか。多くの勝負での勝敗はこれで決まっていった気がします。

「人と違うこと」が強みに!自己表現は自由でいい

 「自分にしかないストーリー」、これは着る側の私たちも同じです。例えば今日、皆さんはなぜその洋服を選択しましたか? 「今日は一日家にいるから動きやすい服をチョイスした」など、誰しもストーリーがあるはずです。オシャレかどうか、ファッションが好きかどうかではなく、毎日何かしらの意図があってその服を選んでいる。これだけでもう、私たちはファッションを「自己表現の一つ」として使っているのです。

 それなのに、逆の発想のものがあります。それは就職活動で身に着ける就活スーツ。私たちは見た目も考え方も一人ひとり違います。ファッションはそれを表現する一つのツールなのに、その自由が奪われるなんておかしい。こんな窮屈な習慣が早く終わりを迎えることを祈るばかりです。

 これからの時代は、人と違うことこそ強みになると思います。それを長所だと信じ、堂々と自由に生きていけばいいのです。自分らしく自分を自由に表現することは、きっと誰かの心を動かします。

 この番組の出場者がそうでした。彼らは心から勝負を楽しんでいたし、自分の作品が人前に出ていく瞬間、間違いなく緊張ではなく興奮を感じていました。

 さぁ、明日は何を着ようか。引き続きステイホーム中な筆者ですが、この作品を見て、勝負を終えるごとに自分らしく生きることの正しさをかみ締めていた彼らから、多くの感動と学びを得ました。家から出ずとも、明日は自分らしい自由な一着を身に着けたい!そう強く思いました。

■『ネクスト・イン・ファッション』
Netflixオリジナルシリーズ。独占配信中。

文/伊藤ハルカ イラスト/六角橋ミカ