『ボクらを見る目』

アフリカ系、ヒスパニック系だから犯罪者? 不条理な時代にピリオドを

 2019年5月31日の配信当初、Netflixで最もクリックされたドラマとして話題になったこの作品。1989年にアメリカNYで実際に起こった20世紀史上最悪とされる冤罪(えんざい)事件を舞台にしています。

 セントラルパークをジョギング中の白人女性が暴行・レイプされた「セントラルパーク・ジョガー事件」。偶然、公園に居合わせたという理由だけでアフリカ系・ヒスパニック系の少年5人が拘束されます。警察は一人を除きまだ15歳にも満たない少年たちを弁護士や親の同席なしに事情聴取し、何十時間も飲まず食わずで閉じ込めた揚げ句、自白を強要。何一つ証拠がないまま、彼らは収監されることになるのです。

 なぜ、世界中の多くの人が数あるNetflix作品からこの作品を選び、見るに苦しいシーンに耐えて最後まで視聴したのでしょうか。子役をはじめとする俳優陣の秀逸な演技に併せ、私は、いつ誰に起きてもおかしくない、他人事とは思えないリアルさがあったからではないかと思います。

 結婚や子供の有無、雇用形態や性嗜好など、人は時に「自分とは違う」人に対し、優越感を覚えることがあります。その逆もしかりです。差別とは、自分と程遠いものではなく、実は身近にあふれるものなのです。それがマジョリティーになると、真実がねじ曲げられることも。このドラマは自分の中に潜む小さな悪魔に気づかせ、自覚させてくれているのかもしれません。

 事件当時、まだ生まれていなかったり、幼かった多くのミレニアル世代は、この事件を知らなかったと言います。ドラマで詳細を知り、ひどくショックを受けたのと同時に、一部の視聴者はSNSを使って、当時少年たちを無理やり訴追した検察リンダ・フェアスタインを「#CancelLindaFairstein(フェアスタインを追放せよ)」というハッシュタグと共に猛烈に批判する動きを見せています。

 それを受けて、リンダはNPO法人を退任し、SNSアカウントもすべて封鎖。SNS時代のドラマのあり方を深く考えさせられた作品でもあります。

 荒波のように気持ちが揺さぶられる強烈な作品ではありますが、見終わったあとにここまで余韻が残るドラマもありません。今を生きる私たちこそ、見るべきこん身の一作です。もう二度と同じ過ちを繰り返さないために。

『ボクらを見る目』
Netflixオリジナルシリーズ。独占配信中。

 どちらの作品も「人と違うって何?」と問いかけてくるもの。もうすぐお盆休み、という方も多いかもしれません。この機会に、じっくり見てみてください。きっと、心に何か残るはずです。

文/伊藤ハルカ イラスト/六角橋ミカ