10月から消費税が10パーセントに増税されて、軽減税率が導入される予定だと聞くたびに、私はこれから生きていけるのだろうか……と不安に震えていますが、皆さんはいかがですか。今回は、生きていく上で絶対に必要なお金が不足してしまうこと=「貧困」を描いた作品をピックアップしてみました。

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

 1本目は『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』。ディズニー・ワールドがあるフロリダのまぶしい太陽の下、若いシングルマザーと6歳の娘のモーテルでの生活が描かれます。彼女たちは、保証人やお金を用意することができないため、賃貸住宅を契約することができず、その日を暮らしていくためにモーテルに「住んで」いるのです。

 主人公のムーニーは、とんでもなくひどいいたずらをするし、ママのヘイリーは、無職で、ブルーグリーンの髪&タトゥーだらけで、二人とも、とにかく口が悪い。やっていることは犯罪スレスレ、いや、れっきとした犯罪。インターネット用語で言うところの、いわゆる「DQN」と呼ばれる人に当てはまるでしょうか。

 映画では、そんな彼女らの生活が淡々と描かれるのですが、次第にいとおしくて仕方なくなってきます。ママはムーニーを無条件に愛していて、ムーニーもママが大好き。ママは悪いところもあるけれど、いつだって優しいし、一緒にいて楽しい。根本は私たちと何も変わらないのです。

 「貧困に陥っている人」という、自分とかけ離れた「特別な人」がいるわけではなく、自分と同じように家族を愛する「普通の人」が、お金がなく、支援もなかなか得られずに困っている。大変な状況でありながら、楽しく笑い合う母娘の姿に胸が締めつけられます。

 ヘイリーは、派手な見た目で態度も悪いし、貧しいのは自業自得だと思う人もいるかもしれません。でも、救済対象を選別し、彼女たちのような人を見捨てるとしたら、いずれ自分が選別されて、切り捨てられる側になる可能性もあることに気づくべきです。

 「自分はシングルマザーでも貧困状態でもないし、遠い向こうの『あちら側』の話だ」と感じる人もいるかもしれません。けれど、もし突然、重い病気になって働けなくなったら? 事故に遭って、障害を抱えて生きることになったら? 貧困から離れた『こちら側』にいる今と同じ生活を、ずっと続けられるという保証は誰にもなく、いつ『あちら側』に転じるかもしれない。私たちのほとんどが皆、境界線のギリギリで生きていると言えるのではないでしょうか。