2020年1月にNetflixで配信が開始された『ミス・アメリカーナ』。この作品は、米国のアーティスト、テイラー・スウィフトに密着したドキュメンタリーで、現代に生きるひとりの女性の美しさと、強さを余すところなく私たちに伝えてくれます。11月に行われる米国大統領選挙の前に、ぜひ見てほしい一本です。

愛されるためにずっと努力してきた

 テイラー・スウィフト。出すアルバムは軒並み大ヒットして、スタジアムツアーを毎回満員にするほど人気のあるビッグスター。グラミーをはじめ、数々の賞に輝いた。パパラッチに囲まれる毎日を送り、ゴシップも多い。音楽は、いくつか聴いたことがあるくらい――。そんな認識で本作を鑑賞した私ですが、完全に考えを改めました。

 テイラー、すごい。まず、全編通して、リラックスしたり、スタジオで作業に集中したりしているときのテイラーの私服がすごい。えっ? セレブファッションでよく取り上げられている、あのテイラー・スウィフトだよね? と思うくらい、ダサい。けれど、そこがかわいい。冒頭のスウェット姿だけで、心をぎゅっとつかまれるほどの親近感。そんなテイラーが、13歳からつけている日記を手にして語り始めるところから映画は始まります。

 「子どもの頃から、とにかく『いい人』と思われたかった。完璧ではないけど、愛されるためにずっと努力して、人には親切にしてきた」。そう語るテイラーは、16歳でデビューした後はスター街道を驀進(ばくしん)します。

 しかし、2009年のMTVビデオ・ミュージックアワードで、泥酔したラッパーのカニエ・ウエストが、受賞したテイラーのスピーチに乱入して「この賞にふさわしいのはビヨンセだ!」と叫んで邪魔をする事件が勃発。このことで精神的に不安定になったテイラーは、それを振り切るかのように制作に没頭し、音楽的にはさらなる成功を収めます。

 「彼女こそが音楽産業だ」とまで称賛されたテイラーですが、その当時の姿はあまりにも痩せており、「ちょっとでも太って見えると言われると食べられなくなった」「ライブ中に気絶しそうなのが普通だと思ってた」と振り返ります。

 そのテイラーが「太ったって言われても、今の自分でいられることが幸せなの」「美しさの基準は一つじゃない」と、ダイエットについて語ります。すぐ体重のことや、太って見えることに気持ちがいきがちな私たちに、これほど説得力のある言葉があるでしょうか。確かに現在のテイラーは、体重は増したかもしれないけど、生き生きとパワフルで輝いている。彼女の「自分を大切にして」という言葉は真っすぐに胸に届きます。

 カニエ・ウエストとの確執からほぼ10年の時がたち、和解したかのように思えたのに、2016年にカニエがリリースしたテイラーを侮辱する内容の曲により、不仲が再燃。異議を唱えるテイラーに対して、「騒ぎすぎ」「いい子ちゃんでムカつく」「うそつきの意地悪女」とバッシングが集中します。

 これまでずっと、「愛されるために努力してきたのに」すべてを踏みにじられたテイラーは、約1年間、表舞台から姿を消してしまうのですが、カメラはその間もずっと音楽を作り続けている彼女を捉えます。どんなに傷ついても、曲作りをやめない。努力し続ける天才だからこそスターであり続けられる。ゴシップで傷つけられた心を癒やすための休業でもあるけれど、前を向いて自分のこれからを見据える時間に充てる、その力強さに圧倒されます。