『勝手にふるえてろ』

 2本目は『勝手にふるえてろ』。松岡茉優が演じる、絶滅生物好きな24歳OLのヨシカは、10年間ずっと中学時代の同級生「イチ」(北村匠海)に片思い中。ところが、同じ会社の「ニ」(渡辺大知)に告白されて、二人のどちらを選ぶべきか悩んだ末、あることをきっかけに行動を起こす――。

(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会 映画『勝手にふるえてろ』Blu-ray&DVD発売中 発売:ソニー・ミュージックソリューションズ
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会 映画『勝手にふるえてろ』Blu-ray&DVD発売中 発売:ソニー・ミュージックソリューションズ

 会社の飲み会よりも、家で「タモリ倶楽部」を見たい。アンモナイトの化石を手に入れて、うれしくて一人踊る。個性的なヨシカですが、中でも私が共感したのは、脳内召喚能力。  

 「イチ」と接した数少ない瞬間を、脳内に召喚しては幸せに浸るヨシカの姿に、大好きな清竜人君との握手会で交わした会話と握手の瞬間を、牛のように反すうする自分が重なりました。皆さんも、好きなアーティストや俳優、アニメのDVDを買って延々リピートしたり、しますよね? 

 そんなヨシカが一念発起、行動した結果、現実の「イチ」は脳内で召喚していた彼とは全然違う、という当たり前のことに気づきます。そして彼が自分の名前を覚えていないことにも。大好きな彼のことをずっと考え続けていたけれど、実際の姿が見えていなかったのは 『愛がなんだ』のテルコと同じ、まさに自己中……。

(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会 映画『勝手にふるえてろ』Blu-ray&DVD発売中 発売:ソニー・ミュージックソリューションズ
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 2人が違うのは、マモル以外のすべてをそぎ落としていくテルコとは対照的に、ヨシカは好きな人だけでなく、毎日街で見かける人たちともコミュニケーションを取りたいと願っていること。  

 けれど「私ごときが」という考えに支配されているため、相手に拒絶されたり、ばかにされたりするのが怖くて、勇気が出ない。スーパーで、たびたび見知らぬおばちゃんと野菜の値段の高騰について話し込むほど神経がずぶとい私は、「大丈夫、気持ち悪くないよ!」と声を大にして言いたい。

 好きな人を脳内召喚していれば、傷つくこともなく平和で楽しいけれど、思い出はゆがみ、いつまでも現実は見えない。思い切っておっかなびっくり話しかけたっていいし、人間は話しかけられると意外とすんなり受け答えするもの。とにかく「人間って死んじゃうんだから、やりたいことをやらないと!」。

 それにしても、いろいろ面倒だけれど一緒にいたいと願う、その相手が自分を選んでくれるのは、なんて奇跡的なことなのでしょうか。

 2作品とも、片思いの恋に奮闘する女の子が主人公の映画ですが、その二人が選ぶ未来は 分かれます。自分の恋愛観や恋人(あるいは友人や他者)との関わり方や、「愛とは?」 と考えるきっかけになればいいなと思います。

文/榎本志津子 イラスト/六角橋ミカ