キリギリスから得られる教訓

 しかし、キリギリスの生き方からも学ぶべきポイントがあることも事実です。この童話が生まれてから二千年以上が経過しました。その間、ずっとキリギリスは悪者扱いされてきましたが、withコロナ時代、ようやく時代がキリギリスに追いついてきたのかもしれません。今回はキリギリスの生き方から得られる教訓を2つだけ紹介したいと思います。

有限の時間を何に使えばいいのか

教訓1.楽しみを取り置きしない

 キリギリスは「将来のための貯蓄」よりも、「いま現在の楽しみ」を優先させています。ためてから楽しむという順番ではないのです。

 私自身の例で恐縮ですが、私は27歳のときに、脱サラして2年間の「世界一周」の旅に出ました。旅を老後の楽しみに取り置きしておく方法もありましたが、「将来、戦争や自分の健康問題などで世界一周できなくなるかもしれない」というリスクを回避すべく、行けるときに行っておこうと。

 当時、パンデミックが起きるなんてみじんも想像していませんでしたが、現在、新型コロナの影響で世界中が鎖国状態にあり、世界一周なんて到底できない状況にあります。これだけ変化が激しい時代、「やれるときにやる」という発想が非常に大切です。チャンスを逃さないように、ファースト・ストライクから振っていく。そんな姿勢をキリギリスから感じられます。

 実は、この童話には別パターンの結末もあります。それは、冬になって食料が尽き、アリたちにバカにされるキリギリスはこう言います。

 「歌うべき歌はもう歌い尽くした」

 負け惜しみにも聞こえます。

 ただ、生きるために働き続けるアリとは違って、やりたいことをやり終えて後悔なきまま一生を終えるキリギリスという捉え方もできます。

 一般的に「物よりも経験のほうが幸福感を得やすい」と言われます。経験は物やお金と違って比較できないので、人と比べなくて済みます。キリギリスはアリのように「一生懸命頑張って、貯蓄していく」スタイルではなく、後悔のリスクを避けるべく、早め早めに「経験」に時間を投資しています。

 今の時代、「お金や物を増やせば増やすほど幸せ」という物質主義的な価値観から「時間を大事なことに使えば使うほど幸せ」という体験主義的な価値観にシフトしています。一度きりの人生、有限の時間を何に使えばいいのか、キリギリスのほうがよく考えているようにも感じます。

世界一周旅行中に訪れたイースター島
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