生死に直面して抱いた葛藤

 「救急救命士」というと、多くの人がイメージするのは、通報を受けて救急車に乗り、病人やケガ人へ応急処置などを施している姿かもしれません。ただ、佐々木さんが就職先で担当したのは、病棟内での勤務。救急救命士としての専門スキルを生かしながらも、患者さんの身の回りの世話をしたり、移動を介助したりする業務が中心でした。

 仕事にはやりがいを感じていたと振り返る佐々木さん。でも、人の生死に直面する毎日の中で、複雑な思いを抱くようになりました。

 「救命に携わる私たちは、当然、患者さんを救いたいと思って力を尽くしています。でも、本質的には救いきれないことも多いんです。命が助かっても、寝たきりの生活を余儀なくされたり、体の機能の一部が不自由になってしまったりして、苦しむ患者さんもいる。今でもうまく言葉にできないのですが、『私にできるのはここまでだから』と器用に割り切ることが難しく、葛藤する日々でした。あれこれ思い悩んでしまっていましたね」