「アートを見る目を養うとビジネスにも役立つ」という話を耳にしたことはありますか? 『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』の著者である山口周さんがビジネスパーソン向けのアート鑑賞セミナーを開くとあって、はやる心を抑えて参加してきました。

 そのプログラムとは、東京国立近代美術館が2019年6月22日に開催したビジネスパーソン向けの「Dialogue in the Museum―ビジネスセンスを鍛えるアート鑑賞ワークショップ」。これは同美術館が、山口さんと1年以上の時間をかけて共同開発した鑑賞セミナーで、ビジネスパーソン向けとしては同館史上初ということです。

 約3時間のプログラムで参加費が2万円(テキスト代含む)とちょっとお高めなところが、「いったいどんな内容?」という期待を押し上げます。それでも募集をかけてから1日もたたずあっという間に定員の30人に達したのだとか。

 プログラムの主な内容は「対話鑑賞」と「山口さんの特別講演」という2つの柱です。対話鑑賞とはギャラリートークともいい、ファシリテーター(ガイドスタッフ)と一緒に、作品を見ながら参加者同士で対話することです。

 山口さんは、自身の著書の中で、ビジネスパーソンや経営リーダーが分析や論理、理性だけに軸足を置いた意思決定をし続けるのは、複雑で不安定な世界では難しいと指摘し、だからこそもっと物事の全体を直感的にとらえる感性や美意識が必要になると説いています。

東京国立近代美術館(本館)。本館と工芸館がある。明治から現代までの日本美術作品を中心とした1万3000点以上を所蔵。本館では通常、企画展と所蔵作品展を開催している
東京国立近代美術館(本館)。本館と工芸館がある。明治から現代までの日本美術作品を中心とした1万3000点以上を所蔵。本館では通常、企画展と所蔵作品展を開催している

感じたことを言葉に 人の意見を否定しない

 朝10時、集まった参加者は30人。美術館内のセミナールームを見渡すと、5人ずつのグループに分けられています。対話鑑賞やディスカッションは、このグループで行います。参加者の属性はと見ると、20~50代と幅広い年齢とほぼ1対1の男女比の印象。皆さん、ちょっと緊張の面持ちです。

 自己紹介と、はがき大のカードに作品が印刷されているアートカードによるゲームでウオームアップを済ませ、いよいよギャラリー(展示室)に入って対話鑑賞!という前に、対話鑑賞する際の3つのルールについて説明を受けました。

対話鑑賞する際のルール
(1)作品脇に付けられているキャプション(説明文)を読まないこと
(2)感じたままにどんどん言葉にすること
(3)人の見方や感じ方を否定しないこと

 アートを鑑賞するとき、私たちは作品を見るより先にキャプションを読んでしまいがち。するとキャプションに書かれていることを「正解」として先に頭に入れることになってしまいます。先に読まないで「まずその作品が持つ宇宙に接し、心を動かしてみることが重要です」(山口さん)と言う。

 次に、鑑賞したときに自分が感じたことを言語化します。その見方や感じ方に正解はありません。さらに、正解がないことから、他者の見方や感じ方を「おかしい」と否定しないことです。