『往復書簡 無目的な思索の応答』
予定調和も、なれ合いもない世界
「飲み会というのは、とにかくにぎやかに盛り上がらなくては」というのもまた、根拠のない思い込みである。心の底から気が合う人たちとならばか騒ぎのクレイジーな飲み会もすてきな思い出になるが、無理やり盛り上がろうとする空気はなんともしんどいものだ。じゃあ、どんな飲み会ならいいのかって? こんな飲み会だったら最高なのにな、という本を最近読んだ。
『往復書簡 無目的な思索の応答』。ライターの武田砂鉄さんと、芸人であり作家の又吉直樹さんの手紙のやり取りを一冊にまとめた本だ。特に何かを声高に主張するわけでもなく、盛り上がりもしない。感動する話も、爆笑ネタもない。それぞれが日々の生活で感じたとりとめのない思いがぽつぽつとつづられ、それに応えるような応えないような言葉がゆるい連想ゲームのようにつながっていく。
けれどもそれは真理に深く潜っていくようにスリリングで、一行一行を読むたびに脳内に鋭い光が差し込み、びりびりとしびれるのを感じる。たのしい。ほんとうにたのしいというのはこういうことだ、と強く思う。
居酒屋で盛り上がっている団体の横、いちばん奥の席で二人が居心地悪そうに小声で話している姿がなぜか目に浮かぶ。予定調和やなれ合いや安易な共感のない世界。こういう飲み会があったら週3で参加したいものだ。
いずれにしても、空虚で平坦な「社会」のお付き合いに心ごと染まる必要はない。そんな飲み会に出なければならなかったとしても、かばんの中に「これこそが自分」という一冊があれば帰りの電車でリカバリーも十分、お酒がなくても多幸感でいっぱいになれる。
前を向き過ぎて疲れてしまわないうちに「服用」するのがおすすめです。
文/花田菜々子 構成/樋口可奈子
はなだ・ななこ