あなたのための特別な本を、目利き力に定評があるカリスマ書店員が選びます。月替わりでおすすめ本を選んでくれる当企画、2回目に登場するのは、TSUTAYA BOOKSTORE五反田店の書店員で、数多くの書籍のプロデュースも手掛ける栗俣力也さんです。

湧き上がるネガティブな感情に蓋をしない

 間もなく5月。新年度のあわただしさも落ち着き、少し新しい日常に慣れ始めるころだろう。この時期には、なんだか急に不安感に襲われる瞬間がある。

 実は、私はこの時期特有の、この不安感が好きだ。不安から「何か行動を起こさないと」という気持ちにつながり、新しいことや楽しいことを始めるパワーに変換できそうに感じるから。時には湧き上がる感情に蓋をせず、向き合ってみるのも大切だと思う。今回は、そんな2冊を紹介したい。


『漫画みたいな恋ください』

うまくいかない日常に、どうにか折り合いをつけていく

 恋愛漫画を読んでいると、「こんな恋がしたい!」と思うようなハッピーエンドに出合うことがある。「彼氏いない歴イコール年齢の30代女性」が「イケメン&高スペック&一生懸命愛してくれる年下男子」と「落ち着いていて経済面も申し分なく、これまたイケメンな年上男子」の二人に愛されて困るといったような展開。

 しかし、現実にはそんな展開はなかなかない。不満と不安に囲まれた日常があるだけだ。

 著者の鳥飼茜氏はそんなリアルな現実を描いた作品に定評がある漫画家。そんな彼女の2018年4月から7月までの日記連載をまとめたのが、本作『漫画みたいな恋ください』だ。

 この作品に書かれているのは、不満と不安のなかで生きる、繊細な一人の女性。よかれと思って行動したことで、恋人とすれ違い、口論になってしまう。ふとした瞬間に、「ここにいたくない」と、本気で全てを投げ出してしまいそうになる。そんな彼女の思いが、日記の文章からにじんできて、何気ないところで何度も涙があふれてくる。

 現実は、漫画のように分かりやすくはない。どうにかして自分で折り合いをつけていくしかない出来事の連続だ。本書を読んでいるうちに、日常の一つひとつが自分自身と重なってくるようだ。

 ちなみに作品に出てくる「彼氏」は、同じく漫画家の浅野いにお氏。出版された後に、連載していた「webちくま」に公開した、彼氏とのその後を報告する「号外」も大いに話題になった。浅野氏もリアルな男女関係をベースにした作品を多数描いているので、この二人の恋人同士の日常を垣間見るつもりで読んでみても面白いだろう。

鳥飼茜『漫画みたいな恋ください』 1500円(税抜)、筑摩書房