目利き力に定評があるカリスマ書店員がおすすめ本を選んでくれる当企画。今回はHMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEに勤務している新井見枝香さんが、6月にうってつけの2冊を紹介します。新井さんは独自に設立した文学賞「新井賞」で知られ、受賞作は同時に発表される芥川賞・直木賞より売れることもあるほどだと言います。

『私がオバさんになったよ』

思いがけない方向へ連れていかれる醍醐味

 ジェーン・スーさんといえば、今やTBSラジオの顔だ。月曜から金曜、お昼に生放送する2時間番組のメインパーソナリティーを務める。テレビでいえば「笑っていいとも」のタモリか。

 そこで必要とされるのは、自らが伝えたいことはもとより、日替わりで訪れるゲストから面白い話を引き出す能力だ。ゲストに全く興味がなかったリスナーに「思いがけずいい話を聞いた」「もっと知りたい」と思わせてこそ、ゲストにとって出演した意味があるってもんである。コアなファンに向けた、深夜の「閉じた」番組とは違うのだ。それはそれで素晴らしき世界だが、まずその中にずぶりと入り込むきっかけが必要。それがこうした「開かれた」お昼の番組であったり、読み物であれば、複数の人物に出会える対談集だったりする。

 思わずノリノリで、節を付けて歌いたくなるタイトル『私がオバさんになったよ』。ジェーン・スーさんがもういちど話したかったお相手との、対談を集めた本だ。プライベートでも交流のある作家やミュージシャンから、全く接点のなさそうな意外な職業の人まで、8本の対談が詰まっている。

 脳科学者・中野信子さんとの対談は、話が進むうちにジェーン・スーさんがみるみる理解を深めていき、つられるようにして、やや難しい話にも引き込まれていく。本のタイトルにザワザワして手に取ったはずが、なぜかネアンデルタール人と現生人類の脳の大きさについて学んでしまう。本をいったん閉じて、ガンダーラについて考え込んだりする。

 テーマを最初から設けないおかげで、思いがけない方向へ広がる対談となっていた。これをきっかけに、中野信子さんの本に手が伸びる人は少なくないはずだ。それこそが対談集ならではの醍醐味で、読んでよかったってもんである。本屋としても、さりげなく隣に関連本を並べて、ニヤリとするところだ。

 登場人物が8人もいれば、興味を持てる人ばかりとは限らない。だが、ついでに読んでみると「そんなことを考えていたの?」と印象が激変することがあるから面白い。雨続きの6月、ラジオのオープニングで、ジェーン・スーさんの「明日はカラッと晴れるそうですよ!」なんてひとことを聞けば、今の気分があっさり変わるのと同じである。

ジェーン・スー『私がオバさんになったよ』1400円(税抜)、幻冬舎