あなたのための特別な本を、目利き力に定評があるカリスマ書店員が選びます。月替わりでおすすめ本を選んでくれる当企画。5回目はTSUTAYA BOOKSTORE五反田店の書店員で、数多くの書籍のプロデュースも手掛ける栗俣力也さんです。夏の思い出を切り口にした選書を聞いたところ、思いがけず記憶の扉が開いてしまったようです。

 今年もこの、最悪な季節がやってきた。暑い。とにかく暑い。私は今、この異常な暑さに何もしたくなくなって、へばっている。

 ふと、「昔は夏が好きで、いろんなこと楽しんで過ごしてたのに」と思いを巡らす。ただ暑いだけで、学生時代は最高だと思っていた夏休みも、今はない。こんなときこそ「脳内小旅行」じゃないけれど、読書をして思い出に浸るのも悪くないかもしれない。今回は思わず夏の記憶の扉を開いてしまうような2作品を紹介したいと思う。

『嫌いになれるまで好きでいたいし、自分のことも好きになりたい』

男の子同士の恋愛トークって、実はめちゃくちゃロマンチックなんです

 あるヒップホップグループが1999年に発表した曲に、男の子は結構ロマンチスト、というようなリリックがあった。当時高校生だった私はやたらとこの言葉に共感してしまった。実際、男同士の恋愛トークはめちゃくちゃロマンチックだったりするものだ。

 2019年1月に発売された『嫌いになれるまで好きでいたいし、自分のことも好きになりたい』。著者のニャンさんは、男のそんなロマンチックな部分を飾らない言葉で素直にさらけ出している。

充実感が足りない夜には 好きな人のことを考えて 眠れなくなる

『嫌いになれるまで好きでいたいし、自分のことも好きになりたい』から引用

 ニャンさんは、こんな切ない片思いの気持ちを表したツイートで女性の共感を呼び、人気を集めた。でも、たぶん世の男性にとってはすごく不思議だったんじゃないだろうか。ニャンさんがつづっているのは、男性なら誰もが思っているけど口に出していないような「男の本音」だからだ。「わかるー!」みたいな女性の共感ツイートを見て「え? 女性の本音も一緒なんすか!?」って思ったのは、私だけではないはず。

 この本を読んでいると、昔の甘酸っぱくてほろ苦い思い出がどんどん浮かんでくる。特に今の時期は、暑さや、日の光の強さ、セミの声なんて季節を感じるあれこれの影響で、よりいっそう夏の恋の思い出がよみがえってくる。

 高校生の頃、夏休みは学校の図書室に毎週のように通って本を借りていた。通りかかった美術室でいつも絵を描いている子が気になって、勇気を振り絞って声をかけたらご飯に行けることになって、テンション上がったのに「やっぱ無理」と次の日メールが来たこと。そういえば、嫁と別れたのも夏だったなー。……あれ、おかしいな。苦い思い出しかない(笑)

 私の思い出はさておき、とにかくこの本を読むと、「恋愛に対して思うことは、いつの時代もきっと同じ」と感じる。

 こんな一文がある。

自己中なクラスメイトがいたら絶対に嫌いになるのに、恋人には「まあいいや」くらいのノリで許しちゃう。
好きな人には許せないことが多くなるし、逆に許せることも多くなる。
矛盾してるけどね。もう、いいか悪いかじゃなくて、感情ですべて決まる。

『嫌いになれるまで好きでいたいし、自分のことも好きになりたい』から引用

 この文章を読んで、うなずいた人も多いのではないだろうか。昔の思い出だったり、今まさに起きていることだったりと、何を感じるのは、きっと人それぞれ違うと思うのだけど。

 昔は「文字数が少ない本はダメだ」なんて思っていたが、最近はそうでもない。文字数が少ないからこそ、メッセージを強く伝えられる言葉を選んだり、文字数が少ないからこそあえて飾らない思いがそこにあったり。

 SNSやらなにやらで考えていることが伝わりすぎる時代だからこそ、こういった作品が必要なのかもしれない

ニャン『嫌いになれるまで好きでいたいし、自分のことも好きになりたい』1000円(税抜)、KADOKAWA
ニャン『嫌いになれるまで好きでいたいし、自分のことも好きになりたい』1000円(税抜)、KADOKAWA