『フルーツバスケット』

何度背中を押してもらったか。『フルバ』のすごさ

 「なんでこんなにこの作品の話をし続けていられるんだろう?」と思うほど、『フルーツバスケット』についての話はとにかく盛り上がる。コミック連載中のときにリアルタイムで読んでいた人なら、そのまま、懐かしい「あの頃」の話題になっていくのだ。

 フルーツバスケットは1998年から2006年まで『花とゆめ』に連載されていた。異性に抱きつかれるとその動物になってしまうという十二支と、十二支になることができなかった猫の物の怪に憑(つ)かれた草摩家の人間、そして誰よりも人を思いやることのできる優しい少女の物語だ。連載当時に大ヒットしてアニメ化もされたが、今年になって再びアニメ化されて話題になった。最近はどこの書店にもコミックが置いてあるようだ。

 夏の思い出にまつわる作品が何かを考えたときに、一番に浮かんだのは、このフルーツバスケットだった。

 夏休みといっても、大学受験のための模試や就活の面接試験で休んでいられない人もいるだろう。私はそうした試験などが最高に苦手で、いつも不安で逃げてしまいたくなる。そんなときは毎回この作品のことを思い出し、勇気をもらっていた。

 もっとも好きな、思い出深いシーンがある。主人公・透が将来の不安にふと涙を流しそうになったとき。年長の登場人物である紫呉(しぐれ)さんが、その状況を「洗濯物」に例えて励ますシーン。

先を気にするのも大切だけど先ばかり見てると
足許(あしもと)の洗濯物に足がからまって転んじゃうでしょう?
「今」や
「今日」何ができるか考えるのも大切
そうやって一枚一枚洗っていけば
なんだかあっけないくらいにアッサリと
お天道(てんとう)さまがのぞいていたりするものだから

『フルーツバスケット』から引用

 この例え話に私はなんど背中を押してもらったか分からない。登場人物の悩みに自分を重ね、明日も前向きに生きられるように背中をそっと押してもらった経験が、この作品の読者ならきっとみんなあるのだと思う

 長い作品だが、最初から伏線だらけで、全巻読み終わると1巻の読後感も変わってくる、すごい作品。海外でも翻訳され、全世界コミックス累計発行部数3000万部を突破しているのもだてではない。

 暑くてちょっと動くだけで疲れてしまうようなこの時期。少しだけ昔の夏のわくわく感や大切にしていた思いを、この2作品を読んで思い出してみるのはいかがだろうか? 冷たい飲み物と甘いお菓子でも食べながら。

高屋奈月『愛蔵版 フルーツバスケット』全12巻、各1冊880円(税抜)、白泉社
栗俣力也(くりまた りきや)
栗俣力也(くりまた りきや) 1983年東京・浅草生まれ。TSUTAYAレコメンダーPJプロデューサー兼TSUTAYA BOOKSTORE五反田店勤務書店員。通称「仕掛け番長」。
文庫、コミックジャンルにおいて多くの商品企画、イベントを手掛ける。
文庫プロデューサーとしてプロデュースした文庫は50タイトルを超え、累計発行部数200万部を突破。
著書に『マンガ担当書店員が全力で薦める本当にすごいマンガはこれだ!』『たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に(原案担当)』『たとえば、君という裏切り(原案担当)』など

文/栗俣力也 構成/樋口可奈子