しかし、かつてのバイトの後輩である伊東正和とは、食の趣味が合い、何かと慕ってくるので、時折ふたりで飲みに行く。そうしてちょうどよい距離を保っていた彼が、マンションの更新時期が迫っていたこともあり、高村の町屋で一緒に暮らすことになった。

 なんて言うと押しかけ同棲(どうせい)みたいだが、男女であっても色っぽい話はなく、高村にとっては、単に余っている部屋を貸したにすぎない。いつも通り、旬のものを使って自分が食べたいものを作り、気が向けば同居人と食卓を共にする。そもそも、そこがぴったりと合うから、細々と続いていた関係だ。楽しくないわけがない。全編を通して、台所で煮炊きをしている程度の暖かみが漂う物語は、秋の肌寒さにぴったりである。

 ところで伊東には、大学で動物の研究をしている彼女がいた。だが、あきらかに彼氏より、動物の死体を解剖することに情熱を傾けている。女性は仕事より恋愛を優先するものと決めつけられがちだが、実際そういう人ばかりでは、これだけ女性が各方面で活躍する今はない。そして、たとえ別のことに情熱を注いでいたとしても、愛する人がいたって何もおかしくはない。長くデートをしていなくたって、自分の彼氏が別の女性とひとつ屋根の下で暮らすことを快く受け入れられるわけではないのだ。それぞれに向かう、嫉妬や愛だけではない気持ちが形作る三角関係は、塩むすびみたいに角が丸い。ちくしょう、どうしたっておなかが減る小説だな……。

千早茜の新刊『さんかく』の書影
千早茜『さんかく』1500円(税抜)、祥伝社