『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』
そもそも「普通の恋愛」などこの世に存在しない
手の届かないアイドルや2次元のアニメキャラクター、いわゆる「推し」にお金も時間も気持ちも注ぎ込み、そのくせしれっとリアルの恋人がいたり、結婚していたりする人も、世の中にはたくさんいる。「それ」の好きと「あれ」の好きは別物なのか。オタクは奥手でモテないんじゃなかったのか。もし「推し」に求愛されたら、彼氏や夫はあっさり捨てられてしまうのか。そのあたりの本音や実情が赤裸々に語られるのは、市井の人の匿名エッセーだ。
『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』は、平成生まれのオタク4人組サークル・劇団雌猫によって編まれた恋愛エッセー集である。この本には全国のオタク女子から「恋愛」というお題で書かれた貴重なエッセーが集まっている。名が知れている人は恋愛の本当なんて書けないし、名が知れていない人のエッセーが、こうして本になって書店に並ぶ機会はなかなかない。こういう、無責任に楽しめるリアルな恋バナを、われわれは待っていたのだ!
鼻息荒く、片っ端から読んでみると、他人の恋バナは驚きとうなずきの嵐。ただ、共感はしても、参考にならなかった。オタク女子の恋愛にセオリーもルールもない。つまり、それだけ恋愛の形は自由であり、そもそも「普通の恋愛」などこの世に存在しないということが分かる。
とりわけ長く続いた夏が終わり、急激に人肌が恋しい季節、恋愛的温かみを得る方法がこの世界にはたくさん広がっている、という事実だけで、どうにか今夜は眠れそうである。
文/新井見枝香 構成/樋口可奈子