『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』

そもそも「普通の恋愛」などこの世に存在しない

 手の届かないアイドルや2次元のアニメキャラクター、いわゆる「推し」にお金も時間も気持ちも注ぎ込み、そのくせしれっとリアルの恋人がいたり、結婚していたりする人も、世の中にはたくさんいる。「それ」の好きと「あれ」の好きは別物なのか。オタクは奥手でモテないんじゃなかったのか。もし「推し」に求愛されたら、彼氏や夫はあっさり捨てられてしまうのか。そのあたりの本音や実情が赤裸々に語られるのは、市井の人の匿名エッセーだ。

 『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』は、平成生まれのオタク4人組サークル・劇団雌猫によって編まれた恋愛エッセー集である。この本には全国のオタク女子から「恋愛」というお題で書かれた貴重なエッセーが集まっている。名が知れている人は恋愛の本当なんて書けないし、名が知れていない人のエッセーが、こうして本になって書店に並ぶ機会はなかなかない。こういう、無責任に楽しめるリアルな恋バナを、われわれは待っていたのだ!

 鼻息荒く、片っ端から読んでみると、他人の恋バナは驚きとうなずきの嵐。ただ、共感はしても、参考にならなかった。オタク女子の恋愛にセオリーもルールもない。つまり、それだけ恋愛の形は自由であり、そもそも「普通の恋愛」などこの世に存在しないということが分かる。

 とりわけ長く続いた夏が終わり、急激に人肌が恋しい季節、恋愛的温かみを得る方法がこの世界にはたくさん広がっている、という事実だけで、どうにか今夜は眠れそうである。

劇団雌猫の新刊『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』書影
劇団雌猫『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』1200円(税抜)、双葉社

文/新井見枝香 構成/樋口可奈子

新井見枝香(あらい みえか)
新井見枝香(あらい みえか) 東京都出身、1980年生まれ。HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEに勤務する書店員。独自に設立した文学賞「新井賞」は、同時に発表される芥川賞・直木賞より売れることもある。エッセー執筆、テレビやラジオの出演も多数(写真/Mina Soma)