ボランティアの住居不足で、空き家の再活用を思いつく

 就活をやめ、次第に石巻に行く頻度が高くなり、滞在日数も増えていった渡邊さん。親しくなった現地の人たちの家に泊めてもらいながら、片付け、掃除、イベントや祭りの運営など、自分にできることはなんでもやった。

「もともと、石巻で『(自分の知識が生かせる)建築関連の活動がしたい』という強い思いや意思はありませんでした。現地の人たちと一緒に作業をし、そのなかで必要だと思うことに全力で取り組んでいく。『誰かに必要とされること』で、自分の存在意義が感じられるようになりました」

 そして2012年の夏、住んでいた東京の家を解約し、石巻に移住した。震災後の1年間で、石巻を訪れたボランティアは約28万人。多くのボランティアの人たちと接するなかで気づいたのが、住居問題だった。

「石巻に継続的に暮らそうとしても、住む所がないから残れないという声も多かった。それなら、地元の人も使わないような空き家を探し、改修して住めるようにすればいいのではないか、と考えました」

巻組が手掛けた物件。立地が悪く、買い手がつかないような物件を買い取り、リノベーションして再活用する
巻組が手掛けた物件。立地が悪く、買い手がつかないような物件を買い取り、リノベーションして再活用する

 大学院で都市計画を研究し、空き家の活用事例は知っていたが、震災後の石巻は全壊した建物が約2万棟あり、地元の人の住まいさえ不足していた。賃貸物件もほとんどないなか見つけたのが、条件不利の土地に建っていた、古い木造の8畳2間の物件だった。

取材・文/岩井愛佳(日経WOMAN編集部) 写真/冨田 望