「自分の強みが生かせる仕事ってなんだろう」「周りに流されるままの人生でいいのだろうか」――。20代前半の頃、そんな悩みを抱えてもんもんとしていた渡邊享子さんが変わったきっかけは、東日本大震災後に宮城県石巻市を訪れたこと。その後、同市に移住し、起業。見知らぬ土地に飛び込むことで、ようやく「自分らしく働くこと」の意味を見つけた彼女の人生に迫ります。

前半 「東京でのキャリア」より、石巻移住を選択した女性起業家
後半 石巻の女性企業家 移住者増やし、地域経済を活性化 ←今回はここ

巻組のスタッフは現在6人。左から2番目が渡邊享子さん。「厳しい時期を一緒に乗り越えてきた、心から信頼できる仲間たちです」
巻組のスタッフは現在6人。左から2番目が渡邊享子さん。「厳しい時期を一緒に乗り越えてきた、心から信頼できる仲間たちです」

実務経験も人脈もお金もなし。おわびしてばかりの日々が続く

 賃貸物件が不足していた石巻で、ようやく見つけた8畳2間の物件。取り壊しも検討されていたが家主に交渉し、修繕費を30万円借りて床だけ張り替え、家賃月4万円のシェアハウスにした。これをきっかけに、条件の悪い空き家を買い上げ、市外からの移住者に提供するプロジェクトをスタート。石巻での活動を通して知り合った仲間二人と活動を続け、約3年後の15年3月に「プロジェクトを継続的な事業にしたい」と、合同会社「巻組」を立ち上げた。渡邊さんは26歳だった。

 「もちろん、最初は失敗だらけ。約束していた納期に間に合わないなどのハプニングやクレームが多々あり、謝ってばかりでしたね。菓子折りを持って何回謝罪に行ったことか……。現場で1つ1つ丁寧に向き合い、処理していくなかで、実務を覚えました」