ラップは「究極の自己カウンセリング」

 時を同じくして「休止中のバンドを忘れられないでもらうためにできることはないか」という理由で、ソロでラッパーとしてライブ活動を始めた。バンドが正式に解散したのは2015年、自身が26歳のときだった。

「ライブのオファーも仕事もない、お金もない、なんにもない。その上、自分をずっと才能がない側だと思って生きてきたので、自己肯定感も地底にめり込んでる(笑)。でも、悔しくて、絶対に負けない、見返してやるという気持ちが強くありました」

 そこからは「バイトはしない」と決め、手当たり次第に多くの人に会いに行き、ライブハウスやクラブ、時には誰かの誕生日パーティーで、ソロのラッパーとして毎日のようにライブを続けた。「今日のメシ代を稼ぐ!という思いで、自作のCDも売りまくりました」。

 ラッパーが即興で言葉を吐き出して競い合う「MCバトル」にも参加した。それは、自分の思いを嫌でも確認させられる作業だった。

「相手にディスられて、『違う、私はこうなんだ!』と言い返す。それを繰り返し続けるって、究極の自己カウンセリングですよね」

 2016年、27歳のときにインディーズでアルバムをリリース。2017年には女性のみのMCバトル「CINDERELLA MCBATTLE」で優勝。初代No.1フィメールラッパーとして注目される。

 リズムで会話する動物、ゴリラに魅了されて名乗り始めた「あっこゴリラ」が、いつしかアーティスト名になっていた。

女性のみのMCバトル「CINDERELLA MCBATTLE」で優勝し、一躍注目される。
女性のみのMCバトル「CINDERELLA MCBATTLE」で優勝し、一躍注目される。

 今回日経WOMANのミュージックビデオに提供してくれた楽曲『余裕』は、2018年のメジャーデビュー曲。周りの空気を読んでいる間に人生があっという間に終わる、だから自分を信じて、自分を見下す前に、場違いなことでも繰り返せ、今日を積み重ねて自分をつくれーー。
 3年近い年月をかけて自らを売り込みながら「伝えたい言葉」を磨き、音楽を通して「自分とは何か」を確認した。『余裕』には、その過程で生まれた強いメッセージが込められている。

「よくいわれる、『生きているだけですごいよ、大丈夫だよ』という言葉って、当時のひねくれた私にとっては、負けていること前提の敗者に対する言い方に聞こえたんですよね。それよりは自分軸で世界を見て、世界と対等に向き合っていきたい。余裕、という言葉はそこから生まれています