2011年の東日本大震災で、今も帰還困難区域として立ち入り制限される福島県大熊町。その地に取り残された牛たちの放牧を行っているのが、ふるさとと心を守る友の会の谷咲月さんです。「原発被災地の町から世界にも役立つイノベーションを発信していきたい」と語る彼女のストーリーを紹介します。
1980年静岡県生まれ。東京でNGO職員として働いていたが、東日本大震災を機に、帰還困難区域に残された牛たちを救うべく、「家畜おたすけ隊」を発足。2012年には「ふるさとと心を守る友の会」として法人化。2019年までに計7.5haで牛力農地保全を実施。2019年にクラウドファンディングで730万円達成し、冬の草ロール自給自足をスタート。
原発被災地から、日本を救うイノベーションを起こしたい
人気のない農地で「モー」とのんびり草を食べる11頭の牛たち――。ここは福島県大熊町。2011年の東日本大震災で事故を起こした、東京電力福島第1原子力発電所の1〜3号機がある町だ。今も帰還困難区域として立ち入り制限される場所に通い、震災後に取り残された牛たちの放牧を行っているのが、ふるさとと心を守る友の会の代表理事、谷咲月さん。
震災当時は東京で働いていたが、人のいなくなった町の牛舎で、牛たちが次々に餓死しているニュースに衝撃を受けた。「被災者への支援と違い、牛に関しては手つかずの状態。私に何かできないかと考えました」
当初、取り残された牛たちは、殺処分される予定だった。「そのとき、本で『牛は柵を作って囲えば、そこに生える草を食べて生きていける』と読んだことを思い出しました」
さらに、帰還困難区域に戻れない農家の人たちが、農地の手入れをできず心を痛めていることを知る。「取り残された牛たちにエサをやれずに絶望する飼い主がいる一方、荒れ果てていく農地に嘆く農家の人たちがいる。酪農家の牛に、農地に生える雑草を食べさせれば、牛を生かすことができ、土地も守れると考えました」。そして、国に交渉し、「放牧」という名目で、牛を殺処分から救った。