テレビ番組の制作に必要なネタを、テーマに合わせて探す「番組リサーチ」会社の代表、佐野貴子さん。ネット検索だけでは出合えない、常識外の面白ネタを足と対話力で発掘し続ける彼女のストーリーを紹介します。

佐野貴子さん
1982年東京都生まれ、静岡県育ち。大学卒業後、三井住友銀行で営業職を担当後、夫の転勤で渡米。シカゴのカレッジでポップカルチャーなどを学ぶ。帰国後、30歳で番組リサーチ会社に就職。フリーランスのリサーチャーを経て、2016年にトロリーを設立。

人と丁寧に向き合うことでみんなの「Win(ウィン)」が見つかる

 個性的な一般人や衝撃映像など、テレビ番組の制作に必要なネタを、テーマに合わせて探す「番組リサーチ」の仕事。実績と人脈がものをいう新規参入が難しい業界ながら、トロリーは設立4年にして、『激レアさんを連れてきた。』など数々の人気番組を担当するテレビ界注目のホープに。外国人も含めた十数名のスタッフを率いるのが、代表の佐野貴子さんだ。

 営業職として銀行に勤務後、夫の転勤で渡米。「さまざまな国籍の人々と出会い、自分の常識が『噛(か)み合わない』新鮮さに開眼」。帰国後は子育ての一方、「海外に関われる仕事がしたい」と、求人サイトで見つけた番組リサーチ会社のパートタイマー職に応募。任されたのは、「こんな人がいるのか」と視聴者が舌を巻く「レアな素人」を発掘し、出演許諾を取る仕事だった。

 同僚らはネット検索で人探しをしていたが、佐野さんが考えたリサーチ方法は、「街に出る」こと。「女性ホームレスを探す依頼を受けたときは、差し入れ持参で河川敷に通い、親しくなった男性ホームレスに紹介してもらいました」

 役立ったのは銀行仕込みの対話力。「目の前のひとりひとりと直接向き合い、どんな言葉・態度で接すれば信頼されるか、学んでいきました

 出演をためらうシングルマザーには、「あなたが努力する姿が世のお母さん方を励ます」と出演の意義を説いた。「誰もが心の奥には社会貢献したいという思いを持っています。一方的にお願いするのではなく、出演していただくことが、互いのウィンウィンにつながるポイントを探っていきます

 丁寧で綿密なリサーチは番組製作者からの信頼も得て、「次も佐野さんで」と業界では異例の個人指名をされるまでに。フリーのリサーチャーとして独立後、ゴールデンタイムの新番組のメインリサーチャーに抜擢(ばってき)され、34歳で会社を設立。今では週6本のレギュラー番組を担当するまでに会社を急成長させた。

 念願だった海外リサーチにも進出。言葉の壁から、海外の権利交渉は専門業者が担うのが通例だが、佐野さんは外国人スタッフにリサーチの技術を一から仕込み、ネタ発掘から権利交渉まで一括受注。「企画意図を理解している分、臨機応変に交渉できるため、一歩踏み込んだ情報にたどり着けることも多い

 多忙な日々の合間を縫って昨年から、平日の夜と週末、青山学院大学のビジススクールに通い始めた。「そうそうたる肩書の方々とともに学び、自分や会社の立ち位置も見え、自信がついた面もあります。『小さな巨人』として、テレビ業界やリサーチ会社の枠にとらわれず、チャレンジを続けていきます