2018年からポーラ・オルビスグループの敏感肌専門ブランド「DECENCIA」のトップに立つ山下慶子さん。「社長はただの『役割』にすぎない。派遣時代も今も変わらず、仕事で人をワクワクさせたいんです」と語る、彼女のストーリーを紹介します。

店舗では売れない時代に、あえてリアルチャネルに挑戦

やるべきことが分からなかった頃が一番苦しかった。そこをクリアした今、困難さえも楽しめるんです
やるべきことが分からなかった頃が一番苦しかった。そこをクリアした今、困難さえも楽しめるんです
山下慶子さん DECENCIA代表取締役社長
1976年愛媛県生まれ。鹿児島女子大学文学部を卒業後、北京清華大学へ語学留学。2000年に旅行代理店エイチ・アイ・エスへ中途入社。画の道を志すべく05年同社を退社し、専門商社、IT企業の派遣社員に。07年に派遣先3社目となるポーラ・オルビスホールディングスに入社。グループ内ベンチャー企業第1号となるdecenciaに出向、4カ月後に正社員となる。15年に同社CRM統括部長、17年にDECENCIAに社名変更した同社で取締役に。18年1月から代表取締役に就任。

 ブランド唯一の直営店がオープンした2019年9月4日。ディセンシア伊勢丹新宿店には、朝から長蛇の列ができ、開店を待つ多くの人の姿があった。

 「ゼロから立ち上げ、この日を迎えるまでの皆の苦労を知っていただけに、あの景色が見えた瞬間はうれしくて」。笑顔でそう話すのは、2018年からポーラ・オルビスグループの敏感肌専門ブランド「DECENCIA」社長の山下慶子さん。

 オープンから約2カ月たった19年末時点でも売り場は盛況。接客時間は1人40分から1時間ほどで、平均20分ともいわれるカウンター・カウンセリングの常識を超える長さだ。

 「そりゃ混むわ、なんですが、敏感肌である自分の悩みに初めて応えてもらえたなど、お客様の話が尽きない。効率も大事ですが、ヒトを見ながらブランドを育てるという意味で、様々なエピソードが現場から聞こえてきて、勉強になっています

 店舗でモノが売れない時代に、あえてリアルチャネルに挑戦した山下さん。「決断力はあるほう」とは自身の弁だが、職場で社員らと談笑する柔和で楽しそうな姿が印象的だ。シワ改善の認可を取得した自社商品を自ら半顔だけ塗布するなど、世間一般の社長像とかけ離れた姿の背景には、派遣社員からスタートしたキャリアの歩みがあった─。

今の会社にとどまる理由は、「飽きなかった」から

 女子大を卒業後、語学留学で中国へ。2年後に山下さんが帰国すると、就職氷河期の真っただ中だった。「地元(熊本)での就職先を探すも決まらず、間違って東京の会社にエントリーしたら、旅行代理店への採用が決まりました」。就職後は社内の賞を受賞するなど仕事への評価は高かったが、画(え)の道を志すべく6年目で退社を決意する。「友人らとルームシェアをして、画を描きながらハケンで働く生活は楽しかった」

 専門商社、IT企業を経て、現在の職場へ。「芽が出ず、画の道に見切りをつけ就職活動を始めた頃。3カ月の派遣契約で勤め始めました」。入社当初は社長以下2名の社員と山下さんのみ。社内ベンチャー企業への出向だった。「社員もハケンも関係なく、新ブランドをどう世に出すかを考え、試行錯誤する日々。今まで感じたことのない充実感でした」。4カ月後には社員のオファーを受け、正社員になった。

 スタートアップ企業ですべてが手探りの中、入社9年目にCRM統括部長に、12年目に約70人を率いる組織のトップに立った。「ついリセット願望が働いてしまう」と言いながらも、今の会社にとどまる理由は、「飽きなかった」から。と同時に「役職に全くこだわらない」とも。「仕事の姿勢は派遣社員時代から今もなお、大切な友達にサプライズパーティーを企画する感覚。そんなテンションで『企む』のが楽しくて、続いています」